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('A`)聖夜にサンタがやって来たようです川 ゚ -゚)



川 ゚ -゚)「クリスマスをな、守ってほしいんだ」


そう言ったのは、白いセーラー服を着た女だった。
季節を無視した夏用の制服に、長い真っ黒な髪。
まっすぐにこちらを見つめてくる顔は、芸能人か人形かと思うほど整っていた。


('A`)「――は?」

川 ゚ -゚)「む、聞こえなかったか?
     私は、クリスマスを君に守ってほしいと言ったんだ」


ただひとつ問題があるとすれば、この女とはまったくの初対面ということだ。
初めて見る顔の知らない女。
どう反応していいのかわからず、アホみたいな顔をする俺に向けて、女は再び口にした。


川 ゚ -゚)「そうだな、私はサンタみたいなものだ」


――それは年の瀬の迫る、12月23日の出来事だった。




('A`)聖夜にサンタがやって来たようです川 ゚ -゚)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



クリスマスは嫌いだ。

リア充がいちゃいちゃして、性の祭典を過ごす最低の日だ。
彼女がいなけりゃ人にあらず、楽しいパーティーする仲間がいなきゃ人生の負け犬、そんな悪意さえ感じる。
それなのに世間はクリスマスで浮かれきっている。

そんなことが、あってたまるか!

あらゆる店には赤と緑の大量の飾り。スピーカーからはジングルベル。
壁を見てみれば、ファミリーサイズのご馳走やら、ケーキの予約のチラシ。

――そして、カップル。
カップル、カップル、カップル――!!!
大学ではクリスマスどうするという話が飛び交い、テレビは寝ても覚めてもクリスマス、バイト先では休みの取り合い。

しかもバイト先が地方都市のデパートとなれば、仕事に行くたびにクリスマス漬けになるハメになる。
畜生、割のいい給料に惹かれて短期バイトなんて入れるんじゃなかった。
正月フェアよ、早く来てくれ、そう願う日々だ。


クリスマスなんてなくなっちまえ、全部ぶっ壊れちまえ。





そもそも、俺のうちにはクリスマスなんてなかった。


うちは仏教徒だから、と父ちゃんや母ちゃんは言っていた。
だけど、本当はそうじゃない。
クリスマスのお祝いができなかった本当の理由は、俺の誕生日がクリスマスとものすごく近かったからだ。

俺の誕生日は12月27日。
うちは俺の誕生日と、クリスマスを別々に祝えるほど金持ちじゃない。
だから、父ちゃんと母ちゃんは、クリスマスよりも息子の誕生日を祝うことを選んだ。
クリスマスのケーキの代わりに誕生日ケーキ、ご馳走は誕生日の夕飯、サンタが運んでくるはずの贈り物は父ちゃんたちからの誕生日プレゼントに。

……別にそれを恨んでいるわけではない。
だけど、そんなんだから俺はクリスマスなんて無縁な人生を送ってきた。

それでも保育園の時にはまだサンタさんが来てくれたものだが、小学校に上がってからはそれもなくなった。
クリスマス会なんてことをやってる奇特なやつもいたそうだが、俺の友達にはそんな金持ちはいなかった。

みんながご馳走やらケーキを食べているのに、俺のところにはない。
みんなは貰えるサンタさんからのプレゼントは俺にはない。


――いや、違うか。一回だけあった。


俺がずっと小さかった頃。一度だけ婆ちゃんが、クリスマスプレゼントをくれたことがあった。
それは、変な怪獣のおもちゃだった。
ずっと欲しがっていた変身ベルトじゃないと、俺は大泣きをした。
そのせいで、俺は父ちゃんや母ちゃんからど叱られた。
その思い出がよほど強烈だったのだろう、あの時の婆ちゃんの悲しそうな顔は今でもはっきりと思い出せる。


とにかく、――そんな有り様だったから、俺はいつからかクリスマスという行事が嫌いになっていた。


俺にとってクリスマスとは、テレビの中の出来事。
もしくは、代返してくれと言われたり、シフト変わってくれと頼まれる日。
一緒に遊んでくれるような奇特なバカもいなかったし、彼女なんてものは空想上の生き物だ。

だから、俺は今もクリスマスなんて大嫌いだ。
まっとうに祝ったことなんて無い。
そうだ。俺はクリスマスなんて――大っ嫌いなのだ。


――そんな俺だから、今年の12月24日もやることはバイトだった。


デパートの一角に設置された、特設のラッピングカウンター。
そこが俺の職場だった。

24日当日だというのにクリスマス商品の包装は山ほどあった。贈り物や、帰省用の土産の包装もだ。

俺や他のバイトたちはレジや窓口から回されたおもちゃやプレゼントを、ひたすら包装紙で包んでいく。
贈り物の大きさに合わせて紙を選んで、後はひたすら折る。ぬいぐるみだとか柔らかい奴は、袋に入れてリボンを掛ける。
紙がぐちゃっとキタナくなってしまえば、新しい紙を出してやり直し。

渡辺さんなんかは、「時間がかかってもキレイにやればいいのぉー」と言ってくれるが、伊藤さんなんかは早くやれと怒る。
しがない短期バイトじゃ社員さんたちに逆らえないから、俺達はそれなりの速さとそれなりのキレイさで仕事をするということになる。
世の中は世知辛いもんだ。



(*><)+


気づけば、ガキが一人包装紙と格闘する俺をじっと見つめていた。
こういうガキはわりと多い。
よっぽどおもちゃがほしいのか。あるいは、プレゼントを包む俺の動きが面白いんだろう。


(*><)「かっこいいんです、スゴイんです……」

(;'A`)(じっと見られてるとやりづらい)


セロハンテープを切って、箱に止める。
赤い包装紙を失敗しないようにぐるりと巻く。ガキンチョ、失敗するかもしれないから見んな。

子供はそんなに好きじゃない。
だけど、こっちは仕事なのだから文句をいうわけにも行かない。
俺は居心地の悪い気持ちのまま、包装紙を折っていく。


いつもと同じ仕事なのに、見られていると妙にやりづらい。
俺はため息を付きながら、セロハンテープへと手を伸ばした。


( <●><●>)「ほら、行きますよ」

(*><)ノシ「ありがとなんです!」


俺が包んだプレゼントを持って、ガキンチョが帰っていく。
結局あの子供は、プレゼントの受け取るまで俺の仕事をガン見していきやがった。

テープを貼るのにしくじること二回、焦りのせいで紙で指を切るという失敗まで見られてしまった。
だけど、俺の動きがよほど楽しかったのだろう。
父ちゃんや妹を抱いた母ちゃんが止めても、あの子供最後の最後までラッピングカウンターのそばに張り付いていた。
俺は失敗の連続で顔面蒼白だというのに、気楽なものだ。

  _
( ゚∀゚)「おつかれさん」

(;'A`)「あー、疲れたわ」


短い時間でどっと疲れた。子供の相手はたくさんだ。
休憩時間まではまだまだあるっていうのに、今から疲れていてどうするんだよ俺。



( <●><●>)「じゃあ次はみんなで映画を見に行きましょう。
        ちょうど時間なのは、わかっています」

(*><)「はいなんですー!!」


子供と父親の声が聞こえる。
――まあ、あそこまで嬉しそうな顔をされると満更ではないのだが。
ああいう客はもうご勘弁願いたいところだ。


(;'A`)「ふぃー」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、ドクオは次これなー」

(;'A`)て「ちょ、よりにもよって一番めんどくさいやつ」


同じバイトのジョルジュが、買い物カゴに入ったでっかいぬいぐるみを寄越す。
他に選択肢はないのかと受付済みの商品棚をのぞけば、山のようにプレゼントがたまっている。
何人かで組になってるとはいえ、アレを全部片付けるのか。

今日の仕事も、なかなか骨が折れそうである。
俺は諦めて、ぬいぐるみを包むために袋へと手を伸ばした。

プレゼントの山と、包装紙やセロハンテープと闘いながら、ふと昨日のことを思い出した。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


年の瀬の迫る、12月23日。
クリスマスに浮かれた街角に、その女は現れた。
そして、俺にまっすぐ歩いてくると言ったのだ。



川 ゚ -゚)「クリスマスをな、守ってほしいんだ」


自称、サンタの女。


白い夏用のセーラー服に、長い真っ黒な髪。
芸能人か人形かと思うほど整った、美少女。
顔からすると多分、年は高校生くらい。
俺が制服フェチ野郎だったらどこの学校の制服かわかっただろうが、残念ながら俺が好きなのは年上だ。
しっかりと見たわけじゃないが、女が着ているのはよくある平凡な制服ということぐらいしかわからない。


川 ゚ -゚)「まあ、サンタというのは正確ではないのだがな。
     私は、クリスマスという概念だ。クリスマスの精と言ったほうがわかりやすいかな。
     ツリーを飾り、ごちそうを食べ、夜にはサンタがやって来るという日本的なイメージのクリスマスだよ」

(;'A`)「……」


――ヤバイ。こいつは頭が可哀想なやつだ。
俺は即座に直感して逃げだそうとしたが、相手はそんな俺の動きを見越していたようだった。
俺が動くよりも早く俺の上着の裾を掴むと、女は言った。


川 ゚ -゚)「逃げるな。話しくらいは聞いたって、バチは当たらないはずだが?」


(#'A`)「知ってるぞ。宗教とか、自己啓発セミナーとかそんなやつだろ!」

川 ゚ -゚)「ふむ、宗教か。言い得て妙だな。
     人の思いから生まれる私は、歴史の薄い神と言い換えてもいい」


女は俺の裾を掴んだまま、表情一つ変えること無く言い放つ。
あまりにも堂々としているから、ひょっとしたらおかしいのは俺の方ではないかと思ってしまいそうになる。
白いセーラー服が冬の弱々しい太陽の下で、揺れる。

―― 一瞬、その姿をどこかで見たことがある気がした。

一体いつだろう。どこで会ったのだろう?
俺はじっと彼女を見つめる。


川 ゚ -゚)「でも、まぁややこしいからな。私のことはサンタだと思ってくれればいい」

(;'A`)「サンタ…」


その言葉に、一気に気力が萎えた。
前言撤回。こんな危ない女なんて、俺は知らない。というか、こんな知り合いがいてたまるか。
俺は「ふざけるな」と大声を上げたくなったが、ぐっとこらえた。
目の前の相手は推定女子高生。下手な動きをしたら、逆にこちらが通報されかねない。


(#'A`)「くそっ――」


俺は女の手を振り払うと、ダッシュで逃げた。
目の前には明らかに言葉の通じない、美人だが怪しい女。
下手に関わったらどうなるかわかったものじゃないし、通報されるのもごめんだ。


(#'A`)「なんなんだよ、あの女は……」


普段は使わない道を通り、尾行されないように何度も道を変えて遠回りをする。
それから誰もいないか周囲を何度も見回して、俺はようやく部屋へとたどり着いた。
大学からそれほど遠くない所にあるしょぼいワンルームのアパート。その一室が俺の家だ。

しばらくアパートを眺め、誰もいないか周りを確認する。
女がどこにもいないことを確信すると、俺は玄関の鍵を開けて素早く部屋に入った。
漫画やらゴミやらで散らかったいつもの部屋の姿にほっとする。


(;'A`)「あー、疲れた」


走り回った時に出た汗が冷えて、とてつもなく寒い。
こたつで温まってから、買い置きしているカップ麺でも食おう。
俺は大きく息をつくと、こたつへと向かい――そして絶句した。


川 ゚ -゚)o日


こたつにあの女が堂々と、入っている。

もちろん俺は許可していない。
そもそも、俺とあの女とは初対面だ。俺の部屋を知っているはずがない。
……何で俺より先に部屋にいるんだ?


川 ゚ -゚)「遅かったな」

(;゚A゚)「な」


部屋の鍵は俺が持っていた。
置き鍵なんてしてないから、合鍵は実家にあるやつくらいしかないはずだ。
俺は出かけるときちゃんと鍵を締めたはずだ。窓も鍵がかかっている。

玄関を振り返れば入るときには気づかなった女物の靴と、入った時にちゃんとかけ直した鍵。
……しっかりと閉まっている。俺が部屋に帰ってきた後から入ってきたわけじゃない。
俺が部屋に入ろうとした時は、もちろん鍵がかかっていた。


(;゚A゚)「ななななななななな、ん、なん」


……一体、どうやって入ったんだ?!
どう考えたって、侵入経路がないんだが……。
つめたい汗が顔を流れる。しかし、当の目の前の女は平然としていた。


川 ゚ -゚)「さっきは詳しい話ができなかったからな、続きといこうじゃないか」


缶ジュースのプルトップをカシャンと開けて、女が話しだす。
俺の部屋にセーラー服の推定・女子高生が一人。しかもかわいい。

邪魔する者は誰もいない、エロゲやエロ本ではおなじみのシチューション。
据え膳食わぬは男の恥……だがっ、


(;゚A゚)「あ、あば、あばばばばばっ」


興奮しない。これっぽっちも興奮しない。
そもそもここで手を出すような度胸があるなら、エロゲなんてしない。
というか、これはまず警察を呼ぶべきだろうか? 通報とかした方がいいのか?
この場合俺が警察に疑われるなんてことにはならない……よな?


川 ゚ -゚)「君は入らないのか、こたつ?」

(;'A`)「へ、あ、ああ」


至極冷静な言葉に誘われて、考え事をしていた俺は思わずこたつに入ってしまう。
暖かな空気が寒空を走り続けてきた俺の体を、少しずつ温めていく。
足がしびれるような感覚と共に、凍りついていたようだった足が感覚を取り戻していく。







(*'A`)「あったかいなぁ~」

川 ゚ -゚)「これは私からの奢りだ。よかったら飲んでくれ」

('∀`)「おっ、炭酸。好きなんだよな、ありがたくいただくぜ」


目の前にはこたつ。
そして、こたつの上にはサンタ女が買ってきた炭酸の缶ジュース。
――目の前には不審者。


川 ゚ -゚)「私が何者なのかという話はもうしたな」


だというのに、こたつの魔力は人間の気力をずるずると奪い去っていく。
喉の渇きについ開けたジュースは走り回った体の隅々まで染み渡り、カリカリとした気持ちを駆逐していく。
バイト疲れと走り疲れのせいか、瞳は重くなって、このまま寝てしまいたくなる。


('A`)「んー、ああ、そうだったな」


世間話でもするように、女の言葉にゆるゆると目を閉じながら答える。
わびしい一人暮らしが続いたせいか、誰か居ると落ち着くなぁと思って、


Σ(゚A゚)「――はっ」


――俺はようやく、我に返った。

しっかりしろ、俺。目の前にいる相手は不審者だ。和んで順応している場合じゃないだろう。
やつのペースに流されるんじゃない、抵抗しろ。


('A`)「……妄想たっぷりの言葉ならな」

川 ゚ -゚)「聞いているのなら問題ない。
     ここから先は、君に頼みたい内容だ」


もてる気力を全て動員してようやくできたのは、かろうじて嫌味を言うことだった。
しかし、サンタ女の方はといえば動じた様子もなく淡々と言葉を続ける。声の調子も、表情も何一つ変わらない。
至極冷静な様子のまま、彼女は本題らしき話に入る。


川 ゚ -゚)「心配しないでくれ。別に君が負担に思うような大変なことじゃないんだ。
     むしろ、君に頼みたいのはほんの些細なことなんだ」

('A`)「おい、俺がお前の言うことを聞くと思ったら」


どうせ何か高いものを買わせようとか、宗教の勧誘とかそんなもんだろう。
俺は事前に牽制の言葉を出す。
しかし、女は俺の言葉には気にも留めないで、言った。


川 ゚ -゚)「明日、12月24日に今日はいい日だったなぁとでも思ってくれればいいんだ」


('A`)「――は?」

川 ゚ -゚)「ご馳走やケーキを食えとまでは、言わない。
     ただ電飾を見上げた時にでも、今日はいい日なんだなぁと思ってくれればそれでいいんだ」


意味がわからない。なんで俺がそんなこと考える必要があるんだ?
そもそも、それが俺である必要はあるのか。
――俺はクリスマスが嫌いなのに、なんでそんなことを言うんだ。

ジュースの缶を睨みつける。しかし、缶ジュースは何も言葉を返さない。
俺が言葉を返すべきは、ジュースではなくて、自称サンタの女だ。
俺よ言え、ガツンと言ってしまえ――


(#'A`)「お前なぁ――」

川 ゚ -゚)「よし、話は分かったな。
     そうと決まったら今日は寝るぞ。明日は私がみっちりとクリスマスの歴史とその異議について教えてやろう」

(*゚A゚)「ね、ね、ね、ね、寝る?」


口にしようとした文句は、女の言葉に吹き飛ばされた。
思考が完全に停止する。


今、「寝る」って言わなかったか?
寝るって……その、それなんてエロゲてきなアレだよな?
いかん。相手が年下だけど、ドキドキしてきた。

いくら俺が据え膳を食う度胸がない男だといっても、相手から誘われれば話は別だ。
美人局という言葉が頭をよぎるが、火のついた欲望はそんなことでは止まらない。
これはもしかしたら大勝利なのかも知れない。


川 ゚ -゚)「私はこのこたつを借りる、だから君は安心して布団で寝てくれたまえ」

Σ('A`)「寝るって、別々かよ!!」

川 ゚ -゚)「それはそうだが、……どうした?」


きょとんと首を傾げて、サンタ女が言う。
一人暮らしの男を前にして、おまけに泊まるなんてとんでも発言をしているというのに、危機感というものがまるでない。
というか、俺は一体何を期待してたんだ。
こいつはこいつで、なんで泊まる気満々なんだ。畜生、こいつの親は何をしてるんだ、親は!!


(#'A`)「いいから出てけぇェェェ!!!!!」


サンタ女の腕を掴むと、靴と一緒に玄関から放り出す。
そしてそのまま鍵をかけると、普段はかけないチェーンもしっかりとかけた。
家出少女だったらどうしようという考えが一瞬、頭をよぎったが、家のすぐそばにはコンビニがある。
そこにさえたどり着けばなんとかなるだろう。でもって、もう二度と俺の前に顔を出さないでほしい。

俺は祈った。


(iii'A`)「……」

川 - -) z Z Z



しかし、その祈りは無駄に終わった。
――結論から言ってしまえば、翌朝こたつで眠っているサンタ女を見かけて、俺は絶望するはめになるのだが、
……それについては、忘れてしまいたい。

ただ、付き合わされたクリスマスについての講義は死ぬほど辛かったとだけ言っておく。
バイトがあるといって逃げ出してきたが、そうじゃなかったらあれが夜まで続いたのだと思うとぞっとする。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

  _
( ゚∀゚)「休憩だってよ休憩!」

('A`)「えー? ああ」


迫り来るラッピングの山を片付けるうちに、気づけばかなりの時間が過ぎていた。
目の前にはうれしそうに腕を振り回すジョルジュがいる。
クリスマスにもかかわらず見上げたバイト根性だが、こいつは彼女持ちのリア充というとんでもない裏切り者だったりする。
長岡ジョルジュ、俺はお前を許さない。


('A`)「俺は一人で食うから……」
 _
(;゚∀゚)「さみしいから一緒に食おーぜ! おんなじ大学のよしみじゃねーか」

('A`)「さみしいって、お前ガキか」
 _
(;゚∀゚)「オレたちトモダチだろー」


いつから友達になったんだよ。バイト始まるまで話したことなかっただろうが。
俺はジョルジュに文句を言おうと口を開き――、社員さんがこっちを睨んでいることに気づいた。


('、`#川「長岡くんも、鬱田くんも静かに」
                      _
(;'A`)「すいませんでした!!!」(゚∀゚ ;)


伊藤さんの前から慌てて撤退し、休憩室に入る。
来るときに買っておいたパンを取り出して、一息つく。
ジョルジュが取り出したのは、ピンクの包みに入った弁当。
いつもはコンビニ飯なのにと思いながら中身を覗いてみれば、サンドイッチと唐揚げとサラダとウマそうな食い物が大量に入っている。
おまけにデザートなのか果物入り。米じゃなくてパンなのが残念だが、俺のここ数日の食事より確実にいいもん食ってやがる。


('A`)「ウマそうだな……」
 _
(*゚∀゚)「渡ちゃんの手作りだぜー」

('A`)「しね」


クリスマスに彼女の手作り弁当とか、自慢かよ。
そう思いながら俺は包みを開けて、パンを口にする。
ここ数年で悲しいくらいに馴染んだ、スーパーの既成品の味だった。

 _
(;゚∀゚)「スネんなってー、オレからドクオに幸福のおすそ分けしてやっから」

(*'A`)「……おすそ分け?」


そのウマそうな、弁当をか?
唐揚げ――は、贅沢すぎるだろうから、サンドイッチくらい食えるんじゃないか?
いや、果物もここ最近食べてないから悪くはない。


(*'A`)「冷たくして悪かった。俺とお前は友達だ!」
  _
( ゚∀゚)「わー、ドクオわかりやすいー。ゲスいー。
     というわけで、ほいっとな」

  _
( ゚∀゚)つー


ジョルジュが俺の手に、何かを放ってよこす。

いったい何が貰えるのかと、手のひらを見てみれば――爪楊枝が一本。
どこをどう見ても唐揚げでも、サンドイッチでもない。
……というか、食い物ですら無い。


(#'A`)「てめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
  _
( ゚∀゚)「怒るなって、寿命が縮んじゃうぞ」

(#'A`)「よりにもよってゴミをよこすとは、貴様なにごとかぁぁぁ!!!」


スーパーの30円引きのパンと、彼女の手作り弁当。
ただでさえありえないほどの格差だというのに、この仕打ちは何だ。
俺のために肉を献上するくらいのイベントがあってもいいだろ!

  _
( ゚∀゚)「いやいや、これはゴミじゃないっつーの。ほれ、旗ついてるだろ」

('A`)「……だから?」
  _
( ゚∀゚)「ガキの頃ってさ、この旗むしょーにほしくなかった? お子様ランチとかについてるの」

('A`)「……」


――言われて、ふと納得した。
貧乏暇なしな俺の家では、たまにする贅沢がファミレスで飯を食うことだった。
そこで頼む食事にのっていた、旗はガキだった頃の俺にとっては確かに宝物だった。


('A`)「まあ、たしかに……」


旗とはいっているが、要は紙を貼り付けただけの爪楊枝。
今から見ると、すっごくしょぼいそれ。だけど、これが宝物だったころがあったのだ。

……これすっごく欲しかったんだよなぁ。
いつからゴミだと思うようになったんだろう? まったく、世知辛いもんだ。

 _
(*゚∀゚)「お、なになに? もらってくれんの?」

('A`)「もらわねーし。これは俺が後で捨てとくから」


ポケットに爪楊枝の旗を放り込む。
べつにこれが本気で欲しいと思ったわけじゃない。捨てるのが少し惜しい。そう思っただけ。
どうせ後でぐちゃぐちゃになるんだし、いいだろう。
俺がもらったんだから、手元に置いたってバチは当たらないはずだ。

 _
(*゚∀゚)「へいへーい」

(*'A`)「わ、笑うな」


ニヤニヤと笑う長岡の頭を、軽く叩く。
久しぶりに手に入れたかつての宝物は少しだけ嬉しくて――恥ずかしかった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


デパートの閉店とともに、クリスマスの飾りを正月用に変える。

一階にある一番メインの飾りは業者が片付けるが、店内にある小さな規模の飾りの片付けは従業員の仕事だ。
ツリーを撤去し、至る所に吊り下げられたリボンやサンタの飾りを外し、片付けていく。
社員の伊藤さんや渡辺さんの支持に従って動きまわり、ツリーやらなにやらを重いものを倉庫へと運んでいく。


('、`*川「ほーら頑張れ、サボるな若人!」

从;'ー'从「あとちょっとだから、がんばろうねぇー」


戦場になっている地下の食品売場に比べれば楽な仕事だと思ったが、現実はそんなに甘くなかった。
伊藤さんは俺や長岡に、やたらと重い荷物ばかり押し付けてくる。
その結果俺たちは、視界を塞ぐ大荷物に顔をしかめながら、売り場と倉庫を何度も往復するはめになった。


(;'A`)「キツイ…」
  _
( ゚∀゚)o彡゜「サンタ人形が通りまーす、っと」


それにしてもまだ25日が残っているというのに、撤退早すぎやしないか?
と思うのだが、クリスマス商戦というやつは非情なものらしい。

――そして、ようやくバイトから解放された頃には、空はとっくの昔に真っ暗になっていた。

  _
( ゚∀゚)「おつかれー。
     俺これから渡ちゃんとデートだから、ここで解散な!」

(#'A`)「爆発しろ」
 _
(;゚∀゚)「ドクオひどっww」


ビルには明かりがつき、道路にはライトをつけた車が大量に行き交っている。
葉っぱが落ちて寒々しくなっていた木は、電飾で派手に飾りたてられてキラキラと輝いている。


(#'A`)「ひでーのはお前だよ、散々ノロケやがって」
 _
(*゚∀゚)「へへっ、じゃあな! 渡ちゃんのちっちゃいおっぱいがオレを待ってるずぇー!!」


走り去っていく長岡を、俺は見送った。
バイト戦士かと思ったのに、この裏切り者め。


('A`)「……帰るか」


寒さに身を縮ませながら、駅前へと向けて歩く。

部屋に戻ればあのサンタ女がいるかと思うと、今から気が重い。
あの女がバイト先に来なくって、本当によかった。
昨日から全然ついていない俺にとって、それは不幸中の幸いだった。
といっても、全然嬉しくないのだが……。俺は大きく息をつく。


駅の真っ正面にある大通りの中央には、ひときわ大きなツリーがそびえ立っている。
元はといえばもう何年も前の市政うん十周年で作られたオブジェなのだが、
てっぺんに星をつけられ、いくつも飾りをつけられたそれは、急ごしらえのツリーとしての役割を立派に果たしていた。


('A`)「畜生」


ツリーはまるでこの世のものではないように光を放っている。
時間がたつごとに色を変えるツリーを眺めようと、何組ものカップルが立ち止まり、道を塞いでいた。


('A`;)「うぅ、寒ぃ」


ビルの間を通る風が、体から熱を容赦なく奪っていく。
建物からでたばかりなのに、耳や手先は痛いくらいに冷えている。
さっさと駅に入ってしまいたい。それなのに、立ち止まる
カップルや人混みが邪魔で、なかなか前に進めない。


从´ヮ`从ト「ロマンチックだね~」

<_プー゚)フ「でも、お前のほうがキレイだよ」


甘ったるい声がして、目の前で男と女の手が絡まる。
顔と顔を近づけて、クスクスと笑い合う。
こいつらは、周りに人がいるなんて思ってないのだろうか。
道のど真ん中で立ち止まりやがって、邪魔なんだよ。


从´ヮ`*从ト「メリークリスマス」


                                   ――どこが? と、思った。


大ツリーを見上げようと立ち止まる人混みと、駅へと向かおうとする俺のような人の群れと、大通りをそのまま進もうする人の流れがぶつかる。
道路脇の店からはジングルベルが流れ、閉店前にせめて客をつかもうと「いらっしゃいませ」と声があがる。


|゚ノ ^∀^)「大切な人へと贈るプレゼントはどうですか?」

ミセ*゚ー゚)リ「わー、すごい!! ねえ見て、きれーい!!」

( ´Д`)「仕事とか何であるんすかねぇ、部長」



                                   ――うるさい。



誰もが街の中を好き勝手に話しながら、歩いている。
同じ様な上着を着た同じ様な男の集団、明るい色の服を着た寒そうな女、飲み会の最中みたいな大学生の群れ。


( ^Д^)9m「今日はオレたちのクリスマスライブに集まってくれてありがとう!!」


耳に入ってくる声は、顔は誰も幸せそうで息が詰まる。
早くここを通り抜けて、さっさと電車に乗ってしまいたい。
だけど、どれだけ足を動かしても、ちっとも前に進まない。


                                   ――腹が立つ。イライラする。なんで俺ばかりがこんな。


気づけば、気分が悪くなっていた。
何を見ても頭がくらくらして、息が詰まる。
周りから聞こえる音は俺の頭をがんがんとゆさぶり、気持ちが悪い。

風邪を引いたのかもしれない。だから、こんなに気分が悪くなるに違いない。

早く帰って、こたつに横になりたい。
それでそのまま寝てしまいたい。
サンタ女なんて知るか。俺は早く帰りたいんだ。
……なのに俺の足はどれだけ進もうとしても、駅へたどり着かない。



ミセ*゚ー゚)リ「すいませーん! 私達の写真とってもらえますか?」

(*´・_ゝ・`)「シャッターを押してくれるだけでいいですから?」


しつこくまとわりついてくるカップルを何とか断り、人をかき分けながら進む。
土日でもないのにどうしてこんなに人が多いのだと思いながら、学生たちの集団の間を俺は何とか通り抜けた。


( #´曲`)「テメェ、前見て歩きやがれ!!!」

(;'A`)「ごめんなさい!!」


勢い余った拍子にぶつかったおっさんに平謝りし、俺は大通りを抜け駅ビルを目指す。

駅ビルの壁面はプロジェクターと電飾を使った、大規模なイルミネーションで飾られている。
時間の経過ごとに色を変えるこのイルミネーションと、駅前の巨大ツリーはこの地方でも屈指の夜景スポットだった。
この光景をみるために、わざわざ来る奴らも多い。


(;'A`)「……」


……だからといって、これはないだろう。
駅ビルを前にして、俺の頭は真っ白になった。


写真を撮ろうとする人の群れと、いちゃつくカップル。そして、駅から出ようとする人の群れで、駅前は完全に動かなくなっていた。
人、人、人。何処を見ても人、人、人。


                                   ――邪魔だ。邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔


何なんだこれは?
俺は早く帰りたいだけなのに、どうしてこんなことになったんだ?
迂回路を必死で考えるが、元々この駅をあまりつかわない俺にはぱっと思いつかない。
それに、バイト終わりで疲れきった俺には、あまり動きまわるような体力は残されていない。


(;'A`)「なんだよこれ……」


黒い人の波がうねるように動いて、気持ちが悪い。
目をつぶれば、辺りの音が頭いっぱいに響いて、俺は慌てて目を開いた。



もう嫌だ。どうしてこんなことになったんだ。



('A`)「――なくなっちまえばいいのに」


呟く。
どうせこんな人混みの中だ、誰も聞いていない。
それならば、少しぐらい好き勝手言ってしまったって構わないだろう。

息を吸う。
頭のなかは疲れよりも、嫌悪感や怒りでいっぱいになっていた。
誰も彼もが浮かれていて気持ち悪かった。

こんな奴らが歩き回っているのも、全部クリスマスのせいだ。
どうしてあいつらはあんなに楽しそうにしているんだ。


                                   ――俺には一度もなかったのに。


('A`)「クリスマスなんて――」


気づけば俺はおもいっきり叫んでいた。


(#'A`)「――全部、なくなっちまえ!!!」




「やめろ」、という声が聞こえた気がした。



川 ゚ -゚)



白い夏服のセーラー服を着た人影が、人混みの中に見えた気がした。
昨日の、サンタ女。
俺の部屋においてきたはずの、彼女。
彼女は俺ではなく駅前の中空をまっすぐと、睨みつけている。


('A`)



何を見ているのだろうと、俺は彼女の視線をたどる。
だけど、そこには何もいない。

俺はなんだと息をつき、視線を戻そうとしてそこに――、










怪獣が現れるのを、見た。










スイッチを切り替えたように、パチリと突然に。


――まるで馬鹿みたいな冗談だった。
突然現れたのは、怪獣としか思えない巨大な生き物の姿。
マヌケな顔をした怪獣。そいつが、駅前にそびえ立っている。


(;^Д^)「ななな、なんじゃありゃー!!!」

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇ、それなんかの撮影?」

(;´・_ゝ・`)「さあ?」


大きな目に、大きな口。
ちょんまげのような形の角と、緑色のカエルの親戚のような体。
丸い体にヒョロヒョロの腕、それとでっかい丸い手。
足も体を支えられなさそうなほど細く、足首から先の部分だけがやたらとでかい丸い形だった。

子供が落書きしたかのような、生き物にはありえないしっちゃかめっちゃかな体。
だけど、そいつは堂々とその場に立っていた。


空にそびえ立つ、怪獣。
そいつはドシンドシンと動くと、「ナリダスー」とマヌケそのものな鳴き声を上げた。



みんな動きを止めて怪獣の姿を見ていた。

街のど真ん中に怪獣が現れて、それでビビらない人間がいるのなら、それこそこっちが教えてほしい。
――映画の撮影? こんな人が多い日に、目立つ場所でやるはずがないだろう。
大体、カメラらしきものはどこにも見えない。

一体、これは何なんだ?


(;゚A゚)「……」


ドシンと地面が揺れる。
さっきまでの気持ち悪さが一気に吹き飛ぶほど、目の前の光景は強烈だった。
俺はいつから夢をみていたのだろう、一体どうしてこんなことになっているのだろう。


,(・)(・),


怪獣の顔がマヌケなせいなのか、誰も動こうとはしなかった。
ぽかんと驚いた顔をして、誰もが怪獣の姿を見上げている。
逃げ出そうとか、誰かを呼びに行こうとかするやつはいなかった。



――ただ、


「やめろ!」


そう声を上げて、駆けた影があった。
見るよりも先にそれが誰なのか、俺は知っていた。


川 ゚ -゚)


背に流れる真っ黒な髪。
白い肌。
誰もが上着や防寒具を着こむ中で、彼女だけは真っ白な夏用のセーラー服を着ていた。

排気ガスとクラクションの音に紛れて、陽気なジングルベルの歌が聞こえた。
ポカンと顔した顔で怪獣を見上げるカップルの間をかき分けて、彼女は手にした何かを思いっきり振るった。

振るわれたそれは、大きな音を上げて怪獣へと命中する。
しかし、しかし怪獣は身じろぎ一つせずに駅ビルへと顔を向けた。


,(・)(・),/


怪獣の手が横薙ぎに振るわれる。
丸い緑の手が街路樹へあたり、メキメキと嫌な音がして折れた。
その惨状にマヌケな顔で怪獣の姿を眺めていた通行人が一気に悲鳴を上げた。

映画や何かの撮影ではない。
仮に撮影だとしても、こんな危険なことは普通しない。
そのことに多くの奴らがやっと気づいたようだった。人の声が、悲鳴が辺りを満たしていく。


ミセ;゚д゚)リ「ね、ねぇ。やだっ」

从´ヮ`;从ト「……あ」


――おかしい。一体、何が起こっているんだ。
誰もが凍りついたかのように動けなくなっていた。さっきまでの呆然とした思考停止とは違う。
恐怖と怯えで動けなくなっている。

そんななかで、あのサンタ女だけは違っていた。


川 ゚ -゚)「止まれ。ここで暴れたって無駄だ」


凛と通る声を上げると、振り上げた武器を再度振るう。
一撃、二撃。
彼女が手にしたそれは幾度も怪獣の足へと命中する。だけど、怪獣は少しも動じない。
なぜなんだと目を凝らしてみれば、彼女が振るう武器は――傘だった。

自称サンタでも武器は妙に現実的なんだなと思うと、少しだけおかしかった。


川 ゚ -゚)「止まるんだ!!」


素早い動きで、傘が振るわれる。
べきりと音がして、彼女の振り回す傘が折れる。
しかしそれを気にした様子もなく、彼女は折れた傘を振るい続ける。

傘なんかでは怪獣に大したダメージを与えられない。
だけど、サンタ女はひるまない。
彼女はさらに攻撃をしようと、傘を突き出し――、


,(・)(・),  ナリダス――!!


怪獣がその足を、大きく一歩二歩と動かした。
動いた足が怪獣に接近していたサンタ女にもろにあたり、彼女の体は大きく吹き飛ばされる。


(;゚A゚)「サンタ女っ!!!」

川 ゚ -゚)「平気だ」


数メートルふっとばされた所で、彼女は立ち上がる。
路面に体をしたたかに打ちつけながらも、彼女は痛みに顔を歪めない。
そこにあるのは俺のよく知る、感情のあまり浮かばない顔だ。

普通はあれだけ吹き飛ばされて転べば、擦り傷や打ち身ですぐには立ち上がれない。
だけど、彼女の動きは信じられないほどスムーズだった。
目を凝らしてみても、彼女の体には怪我らしい怪我は見えない。


川 ゚ -゚)「すまない、借りる」

( "ゞ)「え?」


サンタ女は通行人に駆け寄ると、その手にある傘を奪い取る。
そして、再び怪獣へと向けて駈け出した。
折れた傘は怪獣へ投げつけ、新しく手にした傘をまるで刀のように振るう。


(;'A`)「……なんなんだよ」



――あの女は普通じゃない。
昨日はただの頭のおかしい女だと思っていた。
だけど、怪獣が登場するというこの状況では、サンタ女はまっとうに見える。



                   川 ゚ -゚)「クリスマスをな、守ってほしいんだ」



――あの言葉は、今この時のことを言っていたのか。
だけど、俺にどうしろって言うんだ。
こんな状況で、「いい日だったなぁ」なんて言えるバカがどこにいるんだ。
それに言ったからって、この怪獣がどうにかなるなんて思えない。


(;'A`)「とりあえず、逃げて――」

,(・)(・),


俺は駅とは逆の方向へと足を向ける。
誰もが立ち尽くしている今ならば、きっと逃げられる。
そして、寝てしまおう。寝てしまえばこんなひどい夢からも、目覚められるに決まっている。


,(・)(・),  ナリダス――ゥ!!!


怪獣が鳴いている。
こいつが激しく暴れまわるよりも前に、何とかして逃げなければ。


,*(・)(・),  ナリダスゥゥゥゥゥゥ!!!


怪獣がひときわ大きな声を上げた。
その声がさっきよりもずっと近い場所から聞こえたような気がして、俺は思わず振り返った。


,*(・)(・), 


――そこに、怪獣がいた。
丸っこい体をした、緑色のカエルの親玉みたいな体。それが俺のすぐそこにいる。
そしてそいつは、じっと俺のいる方を見ていた。


('A`;)「……う」


目があったような気がした。
そんなはずがない。ここには俺以外にも、人がいっぱいいる。
だけど、怪獣の大きな目が、笑いっぱなしの口が、じっとこちらを見ている気がして。

……寒かったはずなのに、額から汗が流れた。


川;゚ -゚)「――ドクオ!!」


さっきまで間抜けに見えていた顔が急に不気味なものに見えて、俺はごくりと息をのむ。
気づけば全身が震えていた。
俺は何であんなバケモノ相手に平然としていたのだろうか。


川;゚ -゚)「さっさと逃げろ――っ!!」


サンタ女の顔から、血の気が引くのを見たような気がした。
だけど、俺は動けない。
馬鹿のように突っ立っているだけで、精一杯だった。


\,(・)(・),


怪獣が動く。
緑色の丸っこい手を持つ腕が伸ばされた。
怪獣の腕は道路を越え、花壇を越え、押し合いへし合いしている通行人を超えて、俺のいるところまで届く。


Σ(゚A゚;)「――ひっ」


一瞬の出来事だった。
目の前に緑のアホみたいに大きなものが現れたと思ったら、急に引きずられた。
ものすごい強い力で引っ張られていると思った時にはもう、俺の体は宙に浮かんでいた。


(゚A゚;)「な、な、なんだってぇぇぇぇ――っ!!!」


意味がわからない。
おもちゃのカラーボールみたいな硬くて柔らかい緑色の手が、俺の体を掴み持ち上げている。
俺は抵抗らしい抵抗もできないまま、怪獣にとらえられていた。


,(・)(・),  ナリダスー!!


おもいっきり振り回されて、頭がくらくらする。
だけど、怪獣の腕は俺の体をしっかりと捕まえて、決して落とそうとはしなかった。

冷たい空気に痛む顔をしかめて、なんとか目を見開く。
宙に投げ出されブラブラと揺れる足に怯えながら、周囲の状況を探る。


(;'A`)「ひ、たかっ、落ち……」


そこにはもうごちゃごちゃとした人混みは見えなかった。
暗い空の向こうには星がかすかに見え、下を見れば電飾で飾りたてられた街路樹たち。
そして、正面を見ればビルの壁面を使った巨大イルミネーションが光を放っている。


('A`)「……すげぇ」


初めて目の当たりにする光景に、俺はいつの間にか息をするのも忘れていた。
この高さから落ちたら死ぬ。だけど、あまりにも現実感がなさすぎたせいかもしれない。
その時の俺は馬鹿みたいに、初めて見る光景のすごさに衝撃を受けていた。

ザワザワとうるさかった声は遠い。
息が詰まりそうだった人混みは、遙か下の足下。
そこにいるやつらの驚いた顔や、呆然とした顔。そして、不安と恐怖を張り付けた表情が怪獣と俺にそそがれる。


川;゚ -゚)「――っ!!!」


たまに届く唸るような声は、サンタ女の声だろうか。
何をするにも無表情だった彼女らしくない、焦るような声だった。
下を見下ろしてサンタ女の姿を探してみるが、地上は遠くどこにいるかもわからない。


怪獣は俺の体を放そうとはしない。
だけど、俺に危害を加えようとする気はないらしい。
俺を握りつぶすわけでも、投げ捨てるわけでもなくただ俺の体を持っているだけだ。


,(・)(・),  ナーリィーダースゥー!!!


怪獣が声を上げた。
ビリビリと空気を震わせる泣き声に、足元の人混みが悲鳴にも似たどよめきをあげる。
まるで昔見た特撮番組みたいだ。だけど、こういう状況になると真っ先に飛び出して来る巨大なヒーローの姿はここにはなかった。


ζ(゚、゚;ζ「やだー、何あれー」

ミ,,;゚Д゚彡「おい、人がつかまってるぞ!!!」

( ;‘∀‘)「ねぇ、何なのあれ!!」


怪獣は地上のやつらのどよめきなんて、気にも留めない。
俺を掴んだ手はそのままで、もう片方の手を大きく振りかぶる。


('A`;)「何を……」

,(・)(・),  ナリダス――ッ!!!


そして、怪獣が振り上げたその手は、駅ビルへと向かって振り下ろされた。


ぶちぶちという音とともに、巨大イルミネーションの配線が引きちぎられていく。
壁に人工の雪景色を描いていた電飾が光を失い、沈黙していく……。


ミセ;゚д゚)リ「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」


ほんの少しの電球だけを残して、駅ビルの壁面は沈黙する。
照明の死んだ壁面には背を向けて、怪獣はその短い足で歩き出す。


,(・)(・),


道路を走る車たちの隙間を器用に避け、ツリーと化した街路樹を踏みつけ、あるいはひっこぬいていく。
昔、大好きだった巨大化するヒーローの出てくるテレビみたいな光景。
――その一部始終を俺は特等席から見ていた。


ζ(;、;*ζ「いやぁぁぁぁ!!!」

(;^Д^)「逃げろ! 逃げるんだぁぁぁ!!!」

ミ,,#゚Д゚彡「警察は何をしてるんだ」


(;'A`)「……」


愛をささやいていたカップルが逃げまとい、歩いていたやつらからは笑いが消え、恐怖の声があがる。
途切れ途切れのクリスマスソングなんて誰も聞いていない。

混乱し滅茶苦茶になる駅前、


(;'A`)「……は」


それは、


('∀`)「……はははっ」


いつか、俺が心のなかで描いていた光景そのものだった。
クリスマスなんてなくなっちまえ、全部ぶっ壊れてしまえ。その思いそのままの光景が目の前に広がっている。

楽しいと思った。
これだ。俺はずっとこんな非日常を待っていたのかもしれない。

――クリスマスの崩壊。
大嫌いだったクリスマスが、怪獣の手によってめちゃめちゃになって壊されていく。


ヽ,(・)(・),ノ  ナリダスゥゥゥゥゥ!!!

(*'A`)「やっちまえ!! もっとやっちまえ!!!」


気づけば俺は、おもいっきり叫んでいた。知らず知らずのうちに、笑いがこみ上げてくる。
駅前の混乱に、電車が止まった。
引きちぎられた電球からは火花が上がり、人々は逃げようと押し合いをする。


(*'∀`)「みんなメチャメチャにしちまぇぇぇぇっ!!!!」

ヽ,(・)(・),ノ  ナ゛リ゛ダス゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛!!!


俺の興奮に応えるように、怪獣は雄叫びを上げる。
サンタが踊る看板をへし折り、駅の正面でひときわ存在感を放つオブジェ――巨大ツリーに手をかける。

怪獣の手によって支えられた俺の目の前には、大ツリーの飾りの玉や星がある。
まるで空を飛んでいるみたいだった。
こんな風に飛べるなんて、思ってもみなかった。

カップルから悲鳴が上がり、駅ビルの上層階からぽかんとした顔で地上を眺める男と目があう。
その顔があまりにもマヌケで、俺は吹き出してしまった。
大通りでは怪獣を避けようと車がでたらめな位置で止まり、クラクションがひっきりなしに鳴り続ける。


(*'∀`)「はははっ」


――たまらなく楽しくて、愉快だった。
大嫌いだったクリスマスが、もうめちゃめちゃだ。それが、すごく楽しい。


(*'∀`)「なぁ、楽しいよな。お前はどうなんだ?」

,*(・)(・),  ナリダスゥゥゥ――!!


俺を手に持ったまま、怪獣のもう片方の手がふるわれる。
仲間だと思っているのか、俺を支えるその手は優しい。何が起こっているのか俺に見せるように、手の位置をあわせているみたいだった。
そして、怪獣のその手が、巨大なオブジェのてっぺん――そこにある星へとかかる。


川 ゚ -゚)「それでいいのか?!」


その瞬間、凛とした声が夜の空気を切り裂いて響いた。
下へと目を下ろせば人だかりに紛れてわからなくなっていたはずの、白いセーラー服がそこにいた。


(;`・ω・´)「君やめなさい。危ないから下がって」

(,,#゚Д゚)「さがるんだ!」


彼女は両脇を警官らしい男たちに取り押さえられながらも、まっすぐと俺を見ていた。


川 ゚ -゚)「お前は、それでいいのかドクオっ!!」

('A`)「……それでって」


川  - )「――クリスマスは、こんなものじゃないだろ!!!」

(; A )「――っつ」


いつでも無表情だったあいつらしくない、激しい声。
彼女の声と、まっすぐな瞳に、何故か殴られたような衝撃を受けた。


(;'A`)「――俺は」


サンタ女が暴れている。
警官の手を振り払って前へ……怪獣へ向かって進もうともがいている。
俺は――、


,#(・)(・),  ナ゙リ゙ダズゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙!!!!


俺の戸惑いを叱りつけるように、怪獣が雄叫びをあげる。
掲げられた腕が振り下ろされ、星が火をあげながら地面へと落ちていく。
やがて、大きな音とともに星が砕け散る。
ブチッという音を上げてコードが引きちぎられて、巨大なツリーは一瞬にして真っ暗になった。


悲鳴が上がるのと、駅へ向かって人が駆け出していったのが同時。
駅から飛び出してきた奴らと、駅へ逃げ込もうとした人がぶつかり合って、より大きな悲鳴と怒鳴り声が飛び交う。


(`・ω・´)「落ち着いてください! 一列になって誘導に従ってください!」

(,,#゚Д゚)「危ねぇから、走るな!!!」

(;@∀@)「恐竜へ近づかないで!! 危ないから写真はとらないで!!!」


集まってきた警官たちが誘導をかけるが、パニックを起こした人の群れは止まらない。
怯え逃げ惑う人の群れと、飛び交う怒鳴り声。そして、ぶつかり合う人々。
そこにはクリスマスの面影なんて何処にもない。
あるのは、――何か大変な災害が起こったような荒れ果てた光景だ。


(;`・ω・´)「おい、君っ――!!!」


警官の手から逃れたサンタ女が駆け出す。
手には紳士用の雨傘が一本。
だけど、あんなしょぼい武器じゃこの怪獣相手には歯がたたないだろう。


川#゚ -゚)「私が、止めてやる――!!」


だけど、彼女はひるまない。
俺と怪獣に向けて一直線に向かってくる。


(;'A`)「俺は……」


どうすればいいんだろう。俺にはわからない。
怪獣と一緒に暴れまわる空は楽しかったはずなのに、サンタ女の言葉が姿が俺を戸惑わせる。



――そして、
そして俺は、そんな光景の中で泣き声を聞いた。


しくしくという声でも、つい漏れてしまった嗚咽でもない。わんわんと声を上げる、火のついたような泣き方だ。
泣き止む気配は見えない。
一体何処で誰がと思って――それが子供の泣き声だと気づいた。


(;'A`) (子供?)


何で、こんな時間に子供がいるんだ。親は何をしている?

――俺は地上に向けて、視線を走らせた。
本気で泣いているヤツを見つけようとしたわけではない。
こんな高い場所からでは見つかるはずがないと思っていた。

だけど、見てしまった。気づいてしまった。



( 。><)


それはバイト先でおもちゃを買ってもらったガキとその家族だった。
父ちゃんと母ちゃん。それから、兄ちゃんと妹。
家族は、暴れまわる怪獣の姿をぽかんと見つめている。


(;*‘ω‘ *)*(T.T)*


母ちゃんの腕の中で、妹がわんわんと泣いている。泣き声の主はこの子だ。
兄ちゃんは、涙を浮かべながらもぐっと堪えていた。
プレゼントをしっかりと抱えて、父ちゃんに片手を引かれて、兄ちゃんはじっと怪獣を見つめている。

あの子供は家族と一緒に映画を見て、外食をして――これから電車で帰ろうとしていたのだろう。
だけど、怪獣が現れて、全てめちゃめちゃになってしまった。


思い出す。


(*><)


俺の仕事をじっと眺めていた姿。
俺のいい加減な仕事をかっこいいんですと、言った顔。そして、プレゼントを貰った時の笑顔。
あの子供は本当に嬉しそうな、いい顔をしていた。


( 。><)


だけど、その顔が今は泣き出しそうにゆがんでいる。
よそ行き用だと分かる服を着て、電車に乗ってこのあたりで一番大きな街の駅に来て、こんな目にあって……。
それでもあのガキは、俺が包んだプレゼントをしっかりと抱いていた。

……あの子供は今日をずっと楽しみにしていたんだろうと、気づく。
あの子の楽しみにしていたことは、今はもう取り返しのつかないくらいに壊れてしまったということに、気づいてしまった。
俺と怪獣が笑いながらしたことで、めちゃめちゃになってしまった。


( 。><)「お兄ちゃんがまもってあげるんです」

*(T.T)*「わぁぁぁぁぁん!!!」

( 。><)「お兄ちゃんはプレゼントをもらったいい子なんです。だから負けないんです!」


――だけど、あの子供は負けていなかった。
怪獣をぐっと睨みつけ、一人で立ち向かおうとしていた。
ガキの体が動き、怪獣に向けて一直線に走りだそうとする。


(#<●><●>)つ「ビロード危ないっ!」

( 。><)「僕がたたかうんですっ!!」

(;*‘ω‘ *)「お父さんの言うこと聞くっぽ。ヘリカルも泣かないの。ね?」


その動きは父親の手によって止められた。
だけど、俺の心は、あの子供の姿に激しい衝撃を受けていた。


あんな子供が、戦おうとしている。


――俺は、何をしていたんだろう。
あんな小さなガキの楽しみを奪って、泣かせて。
クリスマスなんて潰れちまえなんて、暴れる怪獣に喜んで。


(;'A`)「……あ」


――俺は何がしたかったんだろう。
俺がしたかったことは、こんなことじゃなかったはずだ。

俺が本当に望んでいたのは――






「クリスマスはな、楽しいものなんだ」






声が聞こえた気がした。
あのサンタ女によく似た――声が。




じぃじぃと鳴くセミの声



                       流れる汗の気持ち悪さ




ミルクみたいな石鹸の匂い。



                       理科室の中にいた、彼女。





川 ゚ -゚)「だからさ、クリスマスは好きなんだ」



あれはいつだっただろう。
夏休み前の昼下がり。冷房の一つもない、理科室。



そこにいた、俺と――彼女。


('A`)「何が『だからさ』ですか。今は、夏じゃないっすか」

川#゚ -゚)「何を言う、クリスマス本番だと私は受験まっただ中じゃないか」

(;'A`)「何をあたりまえのことを」


あれはいつの事だっただろう。彼女は一体誰だっただろう。
サンタ女とよく似た、セーラー服を着て、真っ黒な髪をした彼女。
窓から差し込む強烈な日差しに、制服の白が痛いほど眩しかったのを覚えている。


川 ゚ -゚)「欝田はまだ一年だからわからないんだ、受験というのは呪いだぞ呪い。
     こいつのせいで、私の冬はお先真っ暗だ」

('A`)「はぁ」


――受験生。
先輩、理科室――夏。


川 ゚ -゚)「だから私は、今からクリスマスを祝うことにした。
     正月も節分もバレンタインも、ホワイトデーも今のうちにやる。邪魔はさせないからな!」

('A`)「別に、クリスマスなんてなくなっても」

川 ゚ -゚)「お前は、本当にわかってないな。
     クリスマスっていうのはいいものなんだぞ。ケーキが食べれて、サンタさんが来るんだ」


――そうだ。これは中学校の時の俺だ。
クリスマスと正月と、節分やらなにやらを全部まぜた、よくわからない真夏の馬鹿騒ぎ。

ふと巡らせた視線が、黒板に描かれた落書きをとらえる。
黄色や緑、それに赤。色付きのチョークで描かれていたのは下手くそなツリーやクリスマス飾りだ。
教室を見渡せば、碁盤――そうだ、俺は囲碁将棋部だった――にも碁石を使ったツリーがあった。


川 ゚ -゚)「ほーれ、鬼は外!」

(;'A`)「めちゃめちゃじゃないっすか!!」

川 ゚ -゚)「怒るな怒るな。ほら、シャンパンだ」

(゚A゚)「ひっ!!」


頬に伝わる冷たい感触に俺は飛び上がった。
見れば先輩が缶ジュースを俺の頬に当てて笑っている。


川 ゚ ー゚)「私からのおごりだ。メリー・クリスマス、ドクオ」


――それはずっと忘れていた、中学1年の夏の記憶だった。
俺が忘れていた思い出。
そうだ。そんなこともあったのだ。

俺にも、楽しいクリスマスはあったのだ。







(#'A`)「畜生っ!!!」


体を捻る。
怪獣の手は俺の体を、しっかりと握って放そうとする気配はない。
耳を澄ませば、あの日の先輩の声が聞こえてくる。


(#'A`)「俺にどうしろっていうんだよ!!!」


本当は、わかっていた。
あの怪獣を止めなければならいのは、あの子供じゃなくて俺だ。
俺が戦わなければならない。


(#'A`)「――畜生」


なぜ、俺なのかはわからない。
それでも動かなければと、俺の心は叫んでいた。
あんな子供が戦っているのに、俺が動かないわけに行かない。




                  川 ゚ -゚)「クリスマスをな、守ってほしいんだ」



俺は、俺のやりたいようにやる。
お前に言われたから、やるんじゃない。


(#'皿`)「くそったれがぁぁぁぁぁっっ!!!!」


俺は大きく口を開けると、俺の体を掴む緑の手に思いっきり噛み付いた。


,(・)(・),  ナリダス?


歯にゴムボールを噛んでいるような、よくわからないぐにゃりとした感触が伝わる。
だけど、力を込めても、怪獣の体はビクリともしない。
ゴムのような、プラスチックのような感触は生き物じゃなくて、まるでおもちゃだった。

怪獣は大きな目をこちらに向けて、きょとんとした顔を向ける。
俺の心変わりが信じられない――とでも、言うような顔だった。

('A`)「――くっ」


そんな顔で、俺を見るんじゃない。



その瞬間、――ちくりと胸が痛んだ。

でもそれは、心が痛むとかそんな意味じゃなくて、胸に何かが刺さったような物理的な痛さだ。
……なにかが当たっている?


('A`)「なんだ……?」


掴まれているせいでうまく動かない体をねじり、右手を胸へと持っていく。
さっき痛んだその場所……シャツの胸ポケットのあたりを手で探る。
指に何か、細いものが当たったような気がした。


('A`)「こんなところに何かいれたっけ?」


ポケットに手を突っ込む。
入っているのは、細い木の棒のようなものだ。それを引っ張りだして、目の前へと持っていく。
それは休憩中にジョルジュからもらった、爪楊枝の旗だった。

爪楊枝の上の方に、国旗っぽい模様を描いた紙を貼り付けただけの、子供だましの旗。


(;'A`)「……入れっぱなしにしてたのか」


それでも。
何もやらないよりは、ずっといいのかもしれない。
俺は爪楊枝の旗をぎゅっと握りしめる。


――これは武器だ。武器なんだと信じて。


腕を振り上げる。
傘でだって戦えたのだ。こんな武器でも刺さればきっと痛いに違いない。
そう、信じる。そう信じて、思いっきり振り下ろす。


,(・)(・),  ナリダスゥゥ!!!




                怪獣と一緒に暴れまわったことを思い出す。


                       ツリーを倒した。

                   イルミネーションをぶっ壊した。

           大ツリーの星を叩き落として、みんなを怖がらせた。



                     ほんとうに楽しかった。

                   その気持ちは、嘘なんかじゃない。



                ――だけど、それももう終わりだ。



( 。><)


今にも泣きそうな、ガキを見てしまったから。
俺よりずっと小さいのに、戦おうとするガキの姿を目の当たりにしてしまったから。
あいつよりもずっとデカい俺が、子供みたいなワガママを言っている訳にはいかないのだ。

だから、もう俺は終わりにしなければいけない。
だって、そうじゃないと、恥ずかしいじゃねーか。


(;>A<)「すまねぇ!!!」


一緒に暴れた相棒に向けて、手を振り下ろす。
爪楊枝の旗。子供だったころの、俺の宝物。
それが怪獣の手にさくりと刺さると、





――パン、とはじけた。





気づけばキラキラとした光の粒が、あたりに散っていた。
電球の色よりずっと明るくて優しい光。
それが、俺が突き刺したおもちゃの旗からあふれていた。


,(・)(・),  ……ナリダス


怪獣は自分の手を見ると、俺の顔をじっと見つめた。
何も言わない。だけど、一時は心が通じあったとさえ思っていた俺の裏切りに腹を立てるでもなく、おだやかな顔をしていた。

キラキラとした光はどんどんと広がり、それとは対照的に怪獣の体が少しずつ薄れていく。
消えていく。
あんなに強かった怪獣が、俺のわけのわからない一撃で消えてしまう。


('A`)「――ごめん。ごめんな」

,(^)(^),  ナリダスー


気づけば俺は、謝っていた。
ごめん。その言葉が、怪獣に届いたのかはわからない。
だけど、怪獣は笑顔を浮かべて、そのまま光の粒となって……消えた。



駅前に光の雨が降る。


そこに怪獣がいたのだと言う名残のように、光は降り注ぐ。
それはまるで星空が落ちて来たようだ。
イルミネーションが消えて暗くなった駅に、光はただ静かに降り注ぐ。


俺はその光をじっと見つめ――、


(;゚A゚)゛


自分がどこにいるのか、ふと気づいた。
気づいてしまった。
俺はあの怪獣に掴まれていた。ということは、今いるのは空だ。

空?
え? これどうやって地面に下りるんだよ。
――と言うか、このままじゃ俺、地面に落ちるんじゃねーか?

そう気づいた瞬間、体がガクンと揺れた。


(iii゚A゚)「――ひぃぃぃ」



俺を宙に支えていた力が消え、地面に向けて落ち始める。
真っ逆さまに、落ちていく。落ちれば落ちるほど、少しずつ早さが増していく。


(iii>A<)「死ぬゥゥゥ!!!!」


これはクリスマスをメチャメチャにして、おまけに怪獣まで裏切った俺への罰なのだろう。
ぎゅっと目をつぶって、衝撃に耐えようとする。
死ぬ。死んでしまう――、俺は覚悟を決めようとして、だけどそんなことはできなかった。


そして、俺の体は――落下を続け、


川 ゚ -゚)「大丈夫か?」

(iii'A`)「――え?」


気づけば暖かい腕に支えられていた。
先輩が俺の体を抱き上げ、空に浮いている。

なんで先輩が空を飛んでいるのか、不思議に思わなかった。
先輩はきっと、怪獣の仲間なのだろう。だったら、こんな不思議なことが起こってもおかしくはないのかもしれない。


(;゚A゚)「だいじょうぶ……だ」

川 ゚ -゚)「そうか、それはよかった」


地上はまだ遠いところにある、ぶつかっていたらと思うと頭がクラクラした。

先輩が俺を抱きかかえていた腕を下ろし、俺の体を下ろそうとする。
俺は地上に叩き落とされてたまるかと抵抗したが、先輩は無理やり俺を宙へとおろした。
足が空を踏む。だけれども、それは地面に立っているかのような感触だった。


(;'A`)「あれ、何で」

川 ゚ -゚)「深く考えるな、ハゲるぞ」


気づけばキラキラとした光は辺りを満たし、俺は真っ白な空間の中に先輩と二人でいた。
いや、それだけじゃなかった。
先輩はいつの間にか、怪獣のおもちゃを抱えていた。

……そのおもちゃは、あの怪獣によく似ていた。


('A`)「なんで、先輩がここに……」


目の前にいるのは先輩ではなくサンタ女なのだと、薄々はわかっていた。
だけど、サンタ女は記憶の中の先輩そのものだった。
しっかりと観察してみれば、制服も俺の出た中学校のものだった。


川 ゚ -゚)「先輩、か」


目の前の相手が本当に先輩ならば、一番おかしいのはその見た目だ。
先輩は俺より二つ年上だったから、今ではもう二十歳を超えているはずだ。
だけど、サンタ女は高校生か中学生くらいにしか見えない。


川 ゚ -゚)「――言っただろう、私は概念なんだ。決まった形はないんだよ。
     この姿も君の中にある、一番楽しかったクリスマスの記憶から借りているだけだ」

('A`)「……じゃあ、先輩は」

川 ゚ -゚)「知らないだろうな。過去の自分と同じ姿をした何かがいたなんてな」


サンタ女はぎゅっと怪獣の人形に抱きしめた。
あの怪獣によく似たカエルの親玉のようなおもちゃは、サンタ女の腕の中でおとなしくしていた。


('A`)「それは……?」

川 ゚ -゚)「ああ、こいつはな、シャーミンくんだ。
     松中家にやってきたかわいい宇宙人――という設定の人形だ。君は覚えてないのかな」

(;'A`)「覚えてって、俺はそもそも、そんなおもちゃなんて知ら――」


そう言いかけて、俺は息をのんだ。


('A`)「――知ってる」


サンタ女が抱えているそれを、確かに見たことがある。
いつだっただろう、思い出せない。だけど、たしかお腹を強く握ると、音が出るおもちゃだったような気がする。


川 ゚ -゚)「この子はな、――君にとって一番嫌なクリスマスの記憶の姿を借りている。
     君の思い出したくない思い出というやつだ」


脳裏に、ばあちゃんの悲しそうな顔が浮かんだ。
俺が唯一もらったプレゼント。だけど、俺はそれを違うと言って泣いた。
その時の婆ちゃんの顔は忘れたくても忘れられない。

――そうだ、あの時のおもちゃはこんな形じゃなかったか?
あの人形はどこにいってしまったんだろう。押入れに放り込んでいつのまにか、なくなってしまっていた。


(;'A`)「こいつが俺の思い出って、なんでそんなものがここに」

川 ゚ -゚)「この子はな、人々のクリスマスなんてなくなってしまえという思いの塊だ。
     クリスマスという概念に属しながら方向性は違う。そうだな、私のもう一つの側面と言ってもいいな」

(;'A`)「……?」


こいつの話は、何をいっているのか相変わらずわからない。
だけども、嘘を言っているわけではないのだと思う。ただ、俺の理解が及ばないだけなのだろう。


川 ゚ -゚)「この子はずっと私と一緒に、成長してきた。
     私はクリスマスという行事の良い面を、この子は人の心に巣食うクリスマスへの恨みや怒りを吸って大きくなった」

('A`)「まるで、人間じゃないみたいだな」

川 ゚ -゚)「そうだ。私達は人間じゃないからな。ずっとそうやって私たちはあった。
     そしてこの子は――君を見つけた。
     君へ取り憑いて、その恨みを、嘆きを、妬みを吸って、大きくなろうとした」

('A`)「何で、俺だったんだ?」


それは、正直な疑問だった。
なんでサンタ女は俺のもとにやって来て、怪獣はたくさんの人々の中から俺を捕まえたのか。
先輩と、怪獣のおもちゃはどちらも俺の記憶の中に眠っていた。
クリスマスという以外は何の接点もない。二つの記憶。それがそろって、俺の眼の前にいる。

俺にとっては怪獣が現れたことよりも、それが一番不思議だった。



川 ゚ -゚)「それはきっと、君がクリスマスを求めていたからだと思う」

(;'A`)「――はぁ?!」

川 ゚ -゚)「怨みや妬みという感情はな、裏返しなんだよ。
     君がクリスマスを恨んで憎んだのは、本当は君が誰よりもクリスマスを求めて、叶えられなかったからだ。
     だから君は、この子に。そして私に選ばれた」


――俺が、クリスマスを求めていた?
何で、どうしてそんなことになるんだ。だって、俺にとってクリスマスなんて関係ないもので。


川 ゚ -゚)「クリスマスを祝いたかったんだろう?
     どんなに規模が小さくても、誕生日じゃなくてクリスマスだけのお祝いがしたかった。
     家族や恋人や友人と過ごして、もらったプレゼントに『違う』と泣くのではなく、喜んであげたかったんだろう?」

('A`)「……」

川 ゚ -゚)「私は君の、その悲鳴にも似た願いに呼ばれてここにやって来た」


サンタ女の言葉に、今度こそ本当に何も返せなくなった。
彼女の言うことを肯定出来ない。でも、否定も出来なかった。
何で俺のことを知ってるんだという疑問はもう出なかった。彼女ならば知っていてもおかしくないのかもしれない。
きっと彼女は、本物のサンタだから。だから、クリスマスに関することは全部わかるのだろう。


川 ゚ -゚)「君のその悲しい思いを吸って、この子は大きくなった。この子の糧は、クリスマスに対するネガティブな感情だ。
     『今日はよかった』と、君がクリスマスに少しでもいい感情を持ってくれればよかったのだが、そうはいかなかったな」

(;'A`)「……俺のせいだって、いうのかよ」

川 ゚ -゚)「いいや、私が君の思いを変えることが出来なかったというだけだ。気にするな」

川 - -)「そして、――君の願いの通り、この子はクリスマスをめちゃめちゃにしようと暴れまわった。でも、止めた。
     止めたのは君だよ、ドクオ。君が自分の力で戦うことを、クリスマスを続くことを望んだからだ」


違う、クリスマスが続くことを望んだのはあの子供がいたからだ。
俺一人では、そんなことできなかった。


,(・)(・),


怪獣の顔を見つめる。そして、消えるときに浮かべた笑顔を思い出す。

……ふと、思った。
あの怪獣は俺と遊びたかったのではないかと。
クリスマスをめちゃめちゃにしようとしたのは、俺とあそぶための手段だったのではないかと。


,*(・)(・),  ナリダスゥゥゥ――!!


怪獣のはずむような声が脳裏に浮かんだ。
だけど、怪獣はもう動かない。彼女の腕の中にいる姿は、単なるおもちゃだ。


('A`)「……あいつは、死んだのか」

川 ゚ -゚)「いいや、私もこの子もクリスマスという概念が生きている限りは、消えないよ。今も生きている。
     この子が消えたように見えたのは、今日の夜の大暴れをなかったことにしたからだ。
     君たちの大暴れの後はなかったことになっているから、安心してくれ」


俺はその言葉に、足元を見る。
だけど、世界は真っ白で地上がどうなっているのかすらわからなかった。
ここはどこなのか。今日、起きた出来事が本当は何だったのか、俺にはさっぱり分からない。

――ただ、怪獣が死んでいないという言葉だけは嬉しかった。
だけど、それを認めるのは癪だったから、俺はそっけない言葉を彼女に投げかける。


('A`)「お前の言うことは、さっぱり意味がわからねぇよ」

川 ゚ -゚)「ああ、きっとそうだろうな。君はそれでいいんだ。
     だけど、私は君にお礼を言いたい」


反応を期待したわけではない俺の言葉。その言葉に、サンタ女は笑った。
その表情はかすかにしか動かなかったが、笑ったのだと俺にはわかった。


川 ゚ -゚)「ありがとう、クリスマスを望んでくれて、クリスマスを守ってくれて。
     ――私は、とても嬉しかった」

(;'A`)「お前の話からすると、全部俺が悪かったみたいなんだが」

川 ゚ -゚)「そうか? 気にするなと言っただろう」

(*'A`)「でも、まぁ――ありがとうって言ってくれたのは、嬉しかった」


サンタ女が俺に向かって片手を伸ばす。俺も腕を伸ばして、その手に応じる。
向い合って、握手をする。
きっとこれが別れの挨拶なのだろうと、何となくわかっていた。


川 ゚ -゚)「君にはお礼をしないとな、良い子にはサンタが来るものだ」

(#'A`)「誰がガキだ。誰が」

川 ゚ ー゚)「それは失礼をした」


行くなと、言いたかった。もう少しだけ、彼女と話していたかった。
ケーキを買うから、ワインやプレゼントだって用意するから、怪獣と一緒にもう少しだけいてくれと言いたかった。
――でも、言わなかった。

俺と彼女は昨日出会っただけの赤の他人で、そんなこと言える立場ではない。
それに、彼女はサンタだ。こんなしっちゃかめっちゃかなことに巻き込んだ女が、サンタじゃないはずがない。

サンタは子どもたちにプレゼントを配らなければならない。
だから、俺なんかのところに引き止めておくには、いかないのだ。


川 ゚ -゚)「――ありがとう」

('A`)「こっちこそ」


別れの言葉は言わなかった。
もう二度と会うことはないのかもしれない。
だけど、別れの言葉を言わなければ、また会えるような気がしていた。


そして、視界は真っ白に染まり、






――――――――――――――――――――何も見えなくなった。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


気づけば俺は、駅から少し離れたデパートのそばに立っていた。

怪獣がいた駅ビル真正面には、もう何もいない。
大暴れによってメチャメチャにされた壁面のイルミネーションは光を放ち、大ツリーには星が輝いていた。
全てが元通り。
だけど、そこに立つ人々だけは一体何事だったのかと、ずっと空を見上げていた。


('A`)「終わったのか?」


警官のあげる誘導の声によって、少しずつ人が流れ始める。
電車も車も何事も無く動いていて、怪獣がいた痕跡は完全になくなっていた。
俺は動くことも出来ないまま、その光景をじっと見つめていた。


川  - )「……欝田か?」


不意に、後ろから名前を呼ばれた。
ここ2日ですっかり馴染みになっていた声。その声に、俺は慌てて振り返る。


('A`)「――あ」


そこにいたのは、黒いコートを着込んだサンタ女だった。
違う。サンタ女よりも少しだけ高い背をした彼女は、ずっと大人びた顔つきをしていた。

そうだ、彼女は――


('A`)「先輩?」

川 ゚ -゚)「やっぱりそうだ。欝田は全然変わらないな」


そうだ、先輩だ。
中学生の時の部活の先輩、確か名前は……クー先輩。

背中まである、長い黒髪。
黒いコートに、茶色のマフラーをした体は寒そうに震えている。
サンタ女の面影のあるその顔は、しっかりと化粧がされていてなんだか色っぽかった。


川*゚ -゚)o「欝田は見たか、さっきの恐竜! すごかったなぁ、もっと見たかったよ!」

(;'A`)「は、はぁ」

川 ゚ -゚)o[]「写真も撮ったんだがな、残念ながら全滅だ。
       まさに非科学的。ファンタジー上等というやつだな。もっとしっかりと見ておけばよかった」


先輩が頬を赤く染めながら、勢い込んで語る。
昨日から今日にかけての出来事など全く知らないようなその姿に、先輩がサンタ女と違うことを思い知らされる。

ふいに、昨日こたつで飲んだジュースの味が蘇った。
かすかに口元をほころばせたサンタ女の笑顔が、脳裏にはっきりと浮かぶ。


川 ゚ -゚)「……欝田」


気づくと、先輩が眉をひそめていた。
綺麗な顔に驚いたかのような表情を浮かべ、俺をじっと見つめている。
そして、先輩は言った。


川 ゚ -゚)「――君はどうして、泣いているんだ?」

( ;A;)「……え?」


あわてて頬に手をやると、べたりと濡れる感触がした。
――それで、ようやく俺は自分が泣いているのだと気づいた。
涙は次から次へと溢れ、止めようとしても止まらない。


( ;A;)「さあ、何でなんでしょうね」

川;゚ -゚)「大丈夫か? 無理はするな」


気ぜわしげに話しかけてくる先輩の態度はとても柔らかい。こんなところも、サンタ女とは違う。
サンタ女は、自分の言いたいことばっかりで、ちっとも俺の言葉を聞こうとはしなかった。
ああ、この人は本当にサンタ女とは違うのか。


(;∀;)「――なんでもないんです」



――そう思うと、なぜか涙があふれてきて。
俺は笑いながら、泣き声をあげた。







そして、俺の長い長い夜は終わった。





俺は心配する先輩と別れて、俺は家へと帰った。
先輩の連絡先は聞かなかった。
聞くなんて言う発想がそもそも抜けていたし、聞いた所で今更どんな話をしていいのかも分からない。

――それに、先輩の顔は、サンタ女と怪獣を思い出して少しつらい。

飯もそこそこに布団に入って眠った。
よほど疲れていたのか、夢は見なかった。
そして目覚めた俺の枕元で待っていたのは、


('A`)「……これは」


――真っ赤な包装紙に包まれたプレゼントだった。
寝る前には確かになかった。部屋も窓もしっかりと戸締まりしたはずなのに、確かにそこにプレゼントがある。
まるで昨日のサンタ女だ。
サンタ女が言っていたお礼とは、これだろうか。


('A`)「本当に、来たんだ」


焦りで震える手を何とか動かして、包装紙をはがしていく。
今は仕事中じゃないから思いっきり破いて、中に何があるのか確かめる。


('A`)「――は、は」


そこにあったのは、ヒーローが変身するための変身ベルト――の、おもちゃ。
かつて俺が欲しがって、買ってもらえなかったプレゼント。
プラスチックでできたちゃちなつくりのそれは、俺が子供だった頃ならば興奮して喜びまわった様な代物だった。


('A`)「もうガキじゃねーし」


サンタというのはやっぱり、本当にほしいものなんてわかっていない。
昔ならばいざしらず、この歳になってこんなものをもらったって困るだけだ。
それをあのサンタ女はわからなかったのだろうかと思うと、なんだか笑いがこみ上げてきた。


川 ゚ -゚)


サンタ女がここにいれば、「どうだ、いいだろう?」とでも言っただろうか。
彼女に、「もっといいものよこせ」ともう言えないのが、ひどく寂しかった。


('A`)「こんな物もらったってな。
   それに、俺はどうせもらえるのなら……」


('-`)「……」


俺は心に浮かんだ言葉を飲み込む。
それを言う資格は俺にはないような気がした。だけど、俺は貰えるのならば欲しいものがあった。


,(・)(・),


マヌケな顔をした、怪獣のおもちゃ。
俺がクリスマスに唯一ちゃんともらったプレゼント。いつの間にかなくなっていた、苦い思い出。
……そして、昨日一緒にクリスマスを壊して回った俺の相棒。
ナリダスーという声が、今も耳に残っている。

サンタ女も怪獣も、もうどこにもいない。きっともう二度と会うことはないだろう。
喪失感に胸がじくじくと痛む。いっそ叫びだして、昨日みたいに泣いてしまいたかった。
だけど、出来ない。もう全部終わってしまったのだから。


('Aヾ)「――泣くんじゃないぞ、俺」


サンタクロースは子供のところにしか来ない。
――クリスマスは子供のもので、俺は大人だ。
だけど、それでいいのかもしれない。


テレビは昨日の駅前の惨状を繰り返し繰り返し、語っている。
集団幻覚とか、手抜き工事とか、宇宙人の来襲だとかいろいろと言われているが、はっきりとしたことは全て闇の中だ。
事実を解明しようにも怪獣の痕跡も消え、めちゃめちゃになったツリーも全て元に戻っていたとなれば、もう解明のしようがない。
駅前にいて巻き込まれた奴らには申し訳ないが、説明をしたってきっと信じてもらえないだろう。

――だけど、俺は知っている。
俺だけはあの日、何があったのかを知っている。



('A`)「……よしっ、くよくよしてても仕方ない」


今日はクリスマス。
もう終わったんじゃない、今日こそがクリスマス当日だ。

バイトが終わったら奮発してケーキを買って、ワインでも飲もう。
一緒に祝ってくれる奴はいないが、それなりに楽しいような気がする。

そうすれば、きっとあいつらも喜ぶはずだ。


('A`)「さてと、今日も働きますかね」



そして、俺は日常へと帰っていく。
バイト先へ行けば、待っているのはもう正月の準備だ。

だけど、その前に――



('A`)「メリー・クリスマス」



あの自称サンタと、怪獣に祝福を――。






外は雪景色。
プレゼントを抱えた子どもたちが、声を上げながら走って行った。













【祝福祭】―ブーン系創作板クリスマス・短編投稿祭―【 ^ω^】参加作品
色鉛筆さんのこちらと、 ⊂ブンツンドー⊃さんのこちらにまとめてもらいました。感謝
感想とイラストものすごくうれしかったです!

修正に悩んだのと、季節もののためにこのタイミングでのまとめとなりました。
まとめる際に微妙に修正したりしなかったりです

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