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爪'ー`)y‐グラスフィッシュ・リリーのようです

きらびやかなネオンの輝く大通りから一本脇道に入り、
それでもなお賑やかな通りをさらに曲がると、辺りは静寂に包まれる。
天まで塗りつぶしそうな人工の光たちも、この通りまでその勢力を広げることはできない。


あたりを支配するのは沈黙と、夜。


その宵闇に紛れて、バーボンハウスは存在する。
バーなのか、喫茶店なのか、はたまた雑貨屋なのか骨董屋なのか、外観では判断できない。
磨き抜かれた木製のドアに、長年使い込まれた鈍い光を放つドアノブ。
我々の持つ西洋というイメージをそのまま具現化したようなその佇まい。


(´・ω・`)「やあ。 ようこそバーボンハウスへ。
      これはサービスだから、どうか見てやってほしい」


ドアを開けると、ベルが音を立てる。
意識しなければわからないほどのささやかな音量で流れる、異国の音楽。
並べられた本棚、そこに並ぶのは古書、洒落た古着に宝飾品、地球儀、食器。


爪'ー`)y‐「日本酒……また、店に似合わないものを出してきたものだね。
      サービスというなら、タダで飲ませるのが道理ってものじゃないのかね?」

(´・ω・`)「流石にそこまでサービスしたら、商売あがったりだよ」


離れ小島のように並べられたテーブル、イス、食器棚、そして暖炉。
思い出したように絨毯が引かれ、その上には硝子細工のビー玉や銀製のランプが並べられている。
無秩序なのか、計算通りなのかわからないが、妙な統一感のある空間だった。


爪'ー`)y‐「商売する気なんて、はじめからないだろうに」

(´・ω・`)「まあ、ね」


年代物のジュークボックスと、酒瓶が並べられた作り付けの棚。
調理器具の並ぶ小さな厨房と、そこに直結したカウンターテーブル。
店主のいるこの一角だけが、ここが飲食店であることをかろうじて告げている。


爪'ー`)y‐「ちなみに、飲み物じゃない方のオススメは?」

(´・ω・`)「埋れた音楽家の未完の作品たち。今流れてるのからきっちり三曲後に流れる曲が僕のオススメ。
      そこの棚にある未来の有名作家の新作なんかも面白いんじゃないかな?」

爪'ー`)y‐「食べ物について聞いたつもりだったんだがね」


そう呟きながらも、私は食器棚から未来の作家の新作とやらを手に取った。
その隣にあった、青い色が微かに入ったグラスも一緒に手にする。
海の色か、空の色か。店の照明に、透明な硝子とその中の微かな青が光る。


この青ならばきっと、金魚が映えることだろう。






爪'ー`)y‐グラスフィッシュ・リリーのようです




金魚を飼うならば硝子でなければならない。


縁日で買った金魚がすぐ死ぬのは、透明なビニールにいれるからだ。
あのぶよぶよとした忌まわしい膜は、歪な世界を作り上げ金魚を殺してしまうのだ。
その牢獄の中で、流れる水に恋いこがれ金魚はその動きを止める。


その美しい魚にとって耐え難いその、死。


水を模した硬質で透明なものの中でしか、彼らは生きられない。
彼らは硝子を、アクリル板を、水と思う。そしてようやく、この広大な水の世界の中で安堵するのだ。
だから、金魚は硝子の中で飼わなければならないのだ。

そう、それはこのグラスのような硝子だ。


爪'ー`)y‐「いいグラスだ」

(´・ω・`)「残念ながら、それほどいい品じゃないんだ。今夜はこれで飲むのかい?」

爪'ー`)y‐「いや、それは後だ。
       それはそうと、今夜のオススメを好い加減教えてくれないか?」


涼しげな硝子の海を泳ぐ、朱色の、白の、黒の美しい生き物。
目を閉じれば、氷のような冷たさと共に、いつでもその生き物たちは泳いでいる。


(´・ω・`)「今日は、川魚かな。鮎とニジマスならどっちが好きかい?
      卵と牛肉とハムもいいのが入っているよ。野菜は……トマトがいいかな」

爪'ー`)y‐「相変わらずメニューは無いのかい?」

(´・ω・`)「まあね」


店主の声を聞きながら、私はグラスと未来の作家の作品をテーブルに置く。
本棚と食器棚たちに囲まれた、一角。
この店に来ると私はいつもその席につく。


爪'ー`)y‐「料理は何時も通り任せるよ。魚は鮎で頼む。
      あとは、水。後でゆっくり飲むから、ウィスキーのボトルも」

(´・ω・`)「存分に腕を振わせて貰うとするよ。 日本酒は?」

爪'ー`)y‐「それは別の客にやってくれ」


何時も通りの注文に、店主は何時も通りの微笑で答える。
メニューも料金表もない店。
客は好き勝手に注文を出し、店主はその時の材料と客に合わせて料理を作る。

本棚に囲まれた席に腰を下ろす。
好きに注文を出せるということは、注文を出さない自由もあるということだ。

それは時に不都合で、大抵は都合のよいものだ。



爪'ー`)y‐「小森マサオねぇ……知らない名前だ」


コピー紙で丁寧に作られた冊子には、未来の作家の名前が印刷されている。
彼の理想だか、夢想だかのフワフワとした髪の少女が紙の中でにっこりと微笑んでいる。
この未来の作家も、彼だけの世界を持っているのだろうか。


(´・ω・`)「とりあえず、軽いものから。
      ウィスキーはボトルを出しとくから、好きなタイミングでどうぞ」

爪'ー`)y‐「ああ、よろしく」


がむしゃらに書かれた文章は、稚拙な反面ひどく惹かれる。
未来への絶望と、孤独を書きつづった文章は、はっきり言うと底が浅い。
しかし、そこに登場する少女の描写だけは鮮やかで、圧倒的だった。
「お探しなのは、失われた夢? それとも、私?」、冊子の中で少女は笑い、主人公である僕に問いかける。


爪'ー`)y‐「――『……彼女の言葉に、僕はただ黙っていた。』、か。
      なかなかに奥手じゃないか」


店主の料理を口に運びながら、水を飲む。
店主が持ってきてくれたウィスキーのボトルには、まだ手をつけない。
私は空のグラスを時折眺めながら、小森――おそらくは少年――の書いた小説を読み続ける。

カチリカチリとなる時計は、23時を回っている。



(´・ω・`)「鮎は塩焼で。
      やっぱりいい食材には、シンプルな調理法のほうが合うからね」

爪'ー`)y‐「これは旨そうだ」


店主の作る料理は美味い。とりそろえている酒だって決して悪くない。
奇妙な内装だがそれはそれで気に入っているし、小森少年の書くものも興味深い。
遠く流れるノイズ混じりの音たちも、酷く心地いい。


――だが、ここには彼女が足りない。


爪'ー`)y‐「今日は、駄目かね」


呟き、ウィスキーの瓶に手を掛ける。
今日はもう、この琥珀色の液体に全てを溶かしてしまおうか。
そう考えはじめた時、


カチリと時計が25時の鐘を鳴らした。



⌒*リ´・-・リ「助けて」


――透き通った少女の声が、響いた。
『彼女』だ。私がここで焦がれ続けていた、彼女だ。


爪'-`)y‐「あ、ああ」


自分が酷く動揺しているのが分かる。
驚愕か、歓喜か……胸の中で荒れ狂う感情を、私は力づくで押さえ込む。
そして、何事もなかったかのように平静を装う。


爪'ー`)y‐「何があったんだい?」


私は、彼女の透き通った声に返事を返した。
少女は私の動揺に気づかぬのか、彼女は小さな声で囁くように言葉を放つ。


⌒*リ´・-・リ「金魚が出たの」


小さな花飾りのついた髪留めで髪を結った彼女は、あいまいな顔でそこに立っていた。
怒りでもない、悲しみでもない、困惑でもない、だけど、無表情でもないその顔。
彼女は初恋の少女にも、電車で隣り合う女にも、郷里の母にも似ていた。

誰にも似ていて、決して似ていない彼女は、幼いという一転において私の知るどんな女とも異なっている。
妙に大人びているという点において彼女は、私が過去に見たどの少女とも異なっていた。


⌒*リ´・-・リ「いっぱいいっぱい。このままだと危ないの」

爪'ー`)y‐「そうかい」


この少女はそこにいて、いない。
海に逆さまに浮かぶ都市、砂漠に現われるオアシス、どこまで追いかけても逃げる水。
それらと同じ、実態のない幻。

――――夢と現のあわいに立つ、幻の少女。


⌒*リ´・-・リ「つかまえて」


テーブルの上に置かれた、あの青のグラスを指さして彼女は言う。
私は煙草をもみ消すと、彼女の頭をそっと撫でた。


爪'ー`)「ああ」


彼女の髪からは、ほのかに花の香りがした。
己の重みに耐えきれずうなだれる、その花の名は何だっただろうか?
彼女の髪飾りと同じ、その花の名は何だっただろう。


⌒*リ´・-・リ「おねがい、ね」

爪'ー`)「ああ、任せておきなさい」


店主はどうしたのだろう。今流れる曲は何だろう。この店は一体何なのか。
今日はいつで、今は何時で、ここがどこなのかさえわからない。


⌒*リ´・-・リ「出目金の黒い子とね、赤い子が二匹。
       黒い子はもう星を三つも食べちゃったの」

爪'ー`)「そうか、それは大変だ」


彼女が現われる時はいつでも、何もかもがはっきりしなくなる。
普段ならば容易に思いつくことさえも、思い出せなくなる。
彼女は言う、


⌒*リ´・-・リ「それは金魚が食べちゃったの」

⌒*リ´・-・リ「世界は硬くて食べにくいから、やわらかいものから食べちゃうの」



その魚は私たちの認識することの出来る現実を、概念を、世界を食うのだと、彼女は言う。


ぱく ぱく と  まるで息をするように
ぱく ぱく と  まるで話をするように


そして、花の香りのようにぼんやりとした少女は姿を現わす。
あいまいな表情で、小さな声で彼女は言うのだ。


⌒*リ´・-・リ「金魚を捕まえて」


少女は金魚というが、本当にそれが金魚なのか私にはわからない。
しかし、それが何かと問われれば私もまた『金魚』という以外に答えようがないだろう。

尾ひれをヒラヒラと揺らすその姿。
体をくねらせ、腹びれで


やつらはそのぱくぱくと開く口で、瞬きをしないその目で、世界を食い散らかす。
常識を食いながら、空を泳ぎ。 世界を食いながら、息をしていく。


ぱく ぱく


                  ぱく ぱく




戸棚から取り出したグラスに、ボトルの中のウィスキーを注ぐ。
琥珀色の液体は、すぐに透明な硝子の器を満たした。


爪'ー`)u「さてと」


氷や水は使わない。
酩酊の為だけにつくられた、琥珀の水。
それを私は、一口分飲み干した。

焼けるような熱が、甘みのない強い刺激が、酔いへと私を誘う。


決して、したたかに酔ってはいけない。
現実と意識の間に、ほんの少しズレを覚えるその感覚。
それこそが肝要なのだ。


爪'ー`)「さぁ、出かけようか」


青の色がかすかにはいったグラスを手に取り、立ちあがる。
少女の顔がこくりと動き、小さく同意を示す。


 普段歩くように、少しずれた意識の上を歩む。
  金魚はその上をふわふわと浮いているのだ。



         カラン



                     バーボンハウスの扉を開ける。


(´・ω・`)「いってらっしゃい」




                 そう、声がして、




光のない目を見開いて。


                          月をかき消すようにその体躯をくねらせて。



⌒*リ´・-・リ「あの子なの」



                 家一軒ほどの大きさをもつ、それが飛んでいる。




kingyo1.png



                     グロテスクで不格好で不条理。

             美しさを求め、人によってねじ曲げられ続けた、一つの極地。

            概念を食い、星を食い、世界を食い、空を飛ぶ、巨大なその姿。




             ―――――なんて、醜く美しい生き物なのだろう。




巨大な黒い体は、夜空にとけ込まずその存在を知らしめている。
その体がくねるたびに、腹が、背びれが、尾びれが金の光を放つ。
それなのに街は、路地は、静寂の眠りに包まれたままだ。


⌒*リ´・-・リ「つかまえて」


聞き逃しそうな程かすかな、少女の声が聞こえた。
何時の間にか街灯の下にいた彼女の足下には、影が見えない。


爪'ー`)「ああ」


私は自らの足下に伸びる影を見つめ、視線を上へ向けていく。
影のない少女、明かりの消えたオフィスの窓、街灯の明かり、そして……
……空を泳ぐ巨大な生き物。


爪'ー`)U「さあ、おいで」


私はその巨大な生き物を見上げ、空のグラスを宙に掲げた。
月光を受けキラキラと光るグラスを、空中の水を掬うかのように傾ける。



                   ちゃぽん



微かに響く水の音。
空のグラスの中に、透明な水が溜まりはじめている。


                   ――金魚を飼うならば硝子でなければならない。


充分に水が入り込んだ所で、私はグラスを水平へと戻した。
透明と青の器の中は、空から汲んだ水で満ちている。
空を舞う巨大な魚は、そのグラスを感情の見えない瞳でじっと見つめ、


       やはり水が恋しいと見え、硝子の器の中にちゃぽんと落ちた。


爪'ー`)yU「ああ、やはりこのグラスには金魚が映える」


微かに混じった青と、優雅にくねる黒の姿。
そこにいるのは巨大でも、空を飛ぶわけでもない、黒の出目金。


爪'ー`)yU「そう、思うだろう?」



                 グラスの中の魚はちゃぽんと、返事をした。



⌒*リ*・ー・リ「とっても、ステキね」


始終あいまいだった彼女の表情に、初めて感情らしきものが浮かぶ。
口元をほころばせ僅かに頬を紅潮させたその顔は、はじめて年相応に見えた。


爪'ー`)yU「黒いの。さっそくで悪いが、お前さんとはお別れの時間だ」


手にしたグラスをそっと、地へと傾ける。
金魚はゴポリと息を吐き、体をくねらせながら嬉しそうに地へと潜っていく。
アスファルトを超え、土を潜り、その下にある水脈へと泳いでいくのだろう。


⌒*リ´・ー・リ「……またね」


少女は黒い魚が消えていった、アスファルトをじっと見つめていた。
彼女がアスファルト越しに見ているであろうそこは、少女と彼らが棲むべき世界。
私では知ることすらかなわない、そんな場所だなのだろう。


爪'ー`)「さあ、行こうか」

⌒*リ´・-・リ「うん」


私はその世界に思いを馳せようとして、思考を止める。
好奇心は猫をも殺す。ただでさえ人は死へとむかっているのだから、今さら急ぐ必要もない。


――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


――月の光が、路地へと落ちている。


彼女が言うにはあと二匹、金魚が飛んでいるのだという。
空を舞う赤い二匹の魚たちを、私は思い浮かべてみる。


爪'ー`)「悪くは、ないな」


キラキラと輝く赤の鱗、ゆったりと揺れる背びれ、細やかな血管と周りの風景を透かして動く尾ひれ。
月の光を浴びて飛ぶ姿はさぞかし、絵になるに違いない。


⌒*リ´・-・リ「だめよ」

爪'ー`)「金魚は、水の中ではないと生きられないからかい?」

⌒*リ´・-・リ「あの子たちは、食べちゃうから」


まるで私の思考を読んだかのように、彼女は話す。
金魚は、星を食い、光を食い、境界を崩し、概念を、人やものの思考を食べていく。
そして、最後には世界そのものが、金魚の腹の中に消えるのだと、彼女は小さく訴える。


⌒*リ´・-・リ「だからおねがい」


彼女の言葉が正しいのか間違っているのかわからない。
彼女が狂人なのか、私が狂人なのか。二人とも狂っているのか。


爪'ー`)「ああ、わかってるさ」


あるいは、誰も狂ってなんかいなくって、
世界がそんな風にできているだけなのか――。


爪'ー`)「金魚を飼うなら空じゃなくて、ガラスだろう?」


今も月下を飛んでいるはずの赤い魚たちの姿は、ビル達に阻まれて見えない。
そうであるならば、探しに行かなくては。
――金魚は、空を飛ぶものではないのだから。


⌒*リ´・-・リ「見つからない?」

爪'ー`)「焦る必要はないさ」


右手にグラスを持ち、左手で少女の手を握り夜道を歩く。
バーボンハウスのある通りは相変わらず静まりかえり、街灯だけが柔らかい光を放っている。
さて、どうしようか。


少女の手を取り、裏通りへと入る。
先ほどの路地よりも大通りに近い分、辺りは賑やかだ。
人の姿こそ見えないものの、明かりをともした営業中の店が何軒か見える。

ゴミ箱をあさっていた猫が、にゃーと鳴いた。
派手にポリバケツが倒れているというのに、それを直そうとする店員はいない。
店の中からは、調子のいい大声と拍手が混ざり合った音が、聞こえてくる。


爪' -`)「この辺りにはいない、か」


見上げてみても、泳ぐ魚など見えはしない。
焼き鳥の臭いと、流行を置き去りにした演歌と拍手の音だけが、ここで感じる全てだ。
金魚など飛ぶ余地もなさそうな、光景。


⌒*リ´・-・リ「まだ、近くにいるの」

爪'ー`)「どうして?」

⌒*リ´・-・リ「あの子たちはまだ、そんなに遠くへはいけないから」


そういえばそうだった気がすると、かすかに記憶が告げる。
彼女とこのようなやりとりを何度も繰り返して、金魚を追いかけていたような気がする。

彼女が現れるときはいつでも、曖昧でぼんやりとしていて、
それが夢なのか、現実なのかがはっきりとしない。

いつかも彼女とともにいたのは確かなはずなのに、その記憶さえ思い出せない。
覚えているのは、彼女の存在と、彼女が漂わせる花の香りだけ。


ζ(゚、゚*ζ「お探しなのは、金魚? それとも、失われた夢?」

爪;'ー`)「……っ」


不意に聞こえた声に、私は顔をあげる。
見ると、先ほどまで猫がいたその場所に、ふわふわとした髪の美しい娘が立っていた。
猫があさっていたポリバケツや、散らばったゴミは、いつの間にか消えている。


ζ(゚ー゚*ζ「今晩は。いい夜ね」


蜂蜜のような甘ったるい声で、娘が言う。
先程までは確実にいなかった娘。そこにいた猫は何処へ消えてしまったのだろうか。
そこにあったはずのものが消え、いなかったはずの者がいる。


爪'-`)「……」

ζ(゚、゚*ζ「あまり怖い顔をしてると、横の女の子が怯えちゃうわよ」


ふわふわと緩やかに巻いた髪を揺らして、娘はくすくすと笑う。
あどけないその表情は、酷く可愛らしいのに、どこか現実味が薄い。
夜に映える白いワンピースから伸びる、しなやかな足は素足だ。


爪;'-`)「――」

⌒*リ´・-・リ「……」


白いワンピースの娘から視線を外し、少女へと目を移す。
彼女は髪を風にかすかにそよがせて、私の手を握っている。
その表情は笑っているのか悲しんでいるのか分からない曖昧なものだ。

――少なくとも、怯えるそぶりは見えない。


ζ(゚ー゚*ζ「冗談よ。 じょーだんっ」


くすくすと笑いながら、娘はその場でくるりと回って見せる。
白いワンピースがふわりと広がり、彼女の髪からふわりと甘いにおいがする。
歓楽街の路地にはちっともふさわしくない、美しい仕草。


爪'ー`)「まるで、ドラマか小説だな」

⌒*リ´・-・リ「……?」


少女が、小首をかしげて私を見上げる。
その顔にはやはり怯えなど見えなくて、私は小さく笑う。


ζ(゚ー゚*ζ「あらあら、ご機嫌ね」


素足でアスファルトを軽く蹴り、娘は笑った。
ここが永遠に続く草原か、どこかの舞台会場であるかのように、くるりと再び回る。
そして、彼女は私と彼女に腕を差し出した。


ζ(-、-*ζ「ドラマか、小説か。
       そう言うのならば、私は問いましょう」


風が、彼女の白いワンピースを揺らす。
彼女の足元からは柔らかな草が一つ、二つと芽生え始める。
飲み屋の看板は消え、草原が広がり始める。


⌒*リ;・-・リ「――金魚、……この場所を、食べてる」

爪;'-`)「なっ」


青い、どこまでも広がる青い空。
まぶしい太陽の下、白い雲がふわりふわりと流れていく。
アスファルトは柔らかな土に変わり、そこからは草が次々と伸びていく。


⌒*リ;・-・リ「――大きな穴が」


薄汚れたビルの壁は、青い空気に取り込まれて少しずつ消えていく。
ありえないはずの草原が、夜の空気を塗りつぶした青い空が、世界をのみこんでいく。
草原の中心で、娘の白いワンピースが揺れている。


⌒*リ;・-・リ「大きな穴があいてる、この場所だけ食べたんだ」


これが世界を食うということのなのかと、私は思う。
まるで、夢。どこかの誰かが見た、光景のようだ。



                            僕が見上げる先には、少女がいた。
                  何度も、会おうとして、話そうとして、そして決してできなかった少女。
                        ふわふわとした髪をした、白いワンピースの彼女。
                  彼女の大きな瞳のなかに、情けない僕の姿が映っているのが、見えた。

                                 「――ぁ」

                  声をかけようとして、僕は彼女の名前さえ知らないことに気づいた。
            僕はこんなに彼女と話すことを望んでいるのに、話しかけることさえできないのかと悲しくなる。
                 彼女を見つめたまま話しかけることもできない僕に、彼女はそっと笑って。
                 僕がこれまで見たどんなものよりも美しい笑顔で、彼女は言った。



ζ(゚ー゚*ζ「お探しなのは、失われた夢? それとも、私?」



爪;'ー`)「――『……彼女の言葉に、僕はただ黙っていた。』、か」


そんな言葉が、口からこぼれた。
この言葉はどこから出てきたんだろうかと考えて、その言葉の出所にふと気付く。



                       「お探しなのは、失われた夢? それとも、私?」  

                        ……彼女の言葉に、僕はただ黙っていた。

                           ハチミツのような、甘い声。
                          くすくすという、ひそやかな笑い。
                          僕が、望み続けた彼女の言葉。
                     彼女の声、彼女の笑い、僕に向けた視線、声。

                  その全てが大切で、特別なのに、僕は彼女に向ける言葉を持たない。


ζ(^ー^*ζ「ええ」


「お探しなのは、失われた夢? それとも、私?」、冊子の中で少女は笑い、主人公である『僕』に問いかける。
それは私がバーボンハウスで手に取った小説の、一場面だ。
未来の有名作家の新作。店主はそう語っていた。


⌒*リ;・-・リ「はやく」


爪;'ー`)yU「――っ」


少女の声に私は、手にしたグラスを宙に向けた。
ちょうど手を差し伸べた娘のいる方向。
娘は渡した手にした青いグラスに、じっと眼を向ける。

私はあの小説の、主人公のようにじっと黙っている。


ζ(゚ー゚*ζ「――ありがとう、覚えていてくれて」

爪'ー`)yU「……」


娘の細いしなやかな指が、そっとグラスに触れた。
そして、ぽちゃんと音。
いつの間にか水のたまったグラスの中には、赤い金魚が一匹泳いでいる。


ζ(゚ー゚*ζ「はい、お探しの金魚よ」

⌒*リ´*・-・リ「……よかった」


少女の頬が、赤に染まる。
娘と違って変化はやや乏しいが、それでもそれは彼女の笑みだ。
少女と娘は見つめあい、口にそっと笑みを浮かべた。



風が、未来の作家が夢見た草原を揺らす。
空の青は夜の闇に染まり、草たちはひとつ、ふたつとその色を茶へと変えていく。
翻る娘の白いスカートだけが、相変わらず白い。


ζ(‐、-*ζ「やっぱり、金魚がいなきゃダメ……か」

⌒*リ´・-・リ「それは、ダメ」

ζ(゚、゚*ζ「ん、そうね」


草は枯れ、土はアスファルトへと変わる。
ポリバケツが並び、ゴミが転がり、宴会の声が響いている。
気付けばそこは、飲み屋が何件か並ぶもとの路地だ。


爪'ー`)yU「さっきのは、彼の物語の世界だったのかい?」

ζ(゚、゚*ζ「どうだろう、私にはわからないわ」


肩をすくめて娘は言う。
相変わらず彼女はそこにいるが、その輪郭はどこか心許なかった。
彼女もあの草原のように、あの奥手な作家の想像の中に戻っていくのだろう。


爪'ー`)yU「小森少年によろしく頼む。
       次は傑作を書けと、伝えておいてくれ」

ζ(゚、゚*ζ「……そう、」


そのとたん、娘の表情が華やかに色づいた。
それは物語の中で、「僕」が心ひかれた表情。
ハチミツのような甘い声で、彼女はそっと口にした。


ζ(^ー^*ζ「……そう伝えることができたら、いいんだけどね」


クスクス笑いながら、ふわふわとした娘の姿が消える。
消しゴムで消したかのようにひどくあっさりと、彼女は姿を消した。


⌒*リ´・-・リ「……かえったのね」

爪'-`)yU「……」


ずっと姿を消していた猫が、ひどく驚いたかおでにゃーと鳴いた。
それはそうだろう。
ここは、さきほどまである作家の世界だったのだ。

私の言葉が正しいのか、それとも全くの見当違いなのか、彼女は何も答えなかった。
しかし、消える瞬間、彼女は確かにどこかの誰かに向けて愛おしそうな表情を浮かべたのだ。



kingyo2.png


――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



⌒*リ´・-・リ「あと、ひとり」


路地を食った金魚を地へと返しながら、少女は言った。
彼女が話すたびに、あの空想の少女とは違う香りが鼻を突く。
女というものは、皆違った匂いをつけているのかと、ぼんやりと考える。

あの娘が消えた時、彼女は何を思ったのだろう。
彼女はじぃっと金魚の消えていった先を見ている。
私は彼女のことを、知らない。


爪'ー`)「――だいぶ時間が経ってしまったようだ、急ごうか」

⌒*リ´・-・リ「そうね」


グラスを手に取り、彼女の手を握る。


⌒*リ´・-・リ「最後の子も、さがしてね」

爪'ー`)「ああ」


バーボン・ハウスを出てからしばらくたったというのに、酩酊感は未だ続いている。
今は何時なのだろう、ここは本当に私の知る町なのだろうか。
空を飛ぶ巨大な金魚に、路地に広がった草原に、誰も気づかなかったのだろうか。


にゃーと鳴く猫を追い越し、大通りへと入る。

道幅の広い道路には車があふれ、路地よりもはるかに多い店が並んでいる。
思い思いに声をあげ、歩道を通る人、人、人。
この時間帯は、こんなにも人が多かっただろうか?
思い出そうとして見るが、頭に霞がかかったようで思い出すことはできなかった。


爪'ー`)「金魚が食った……のかね」


車の動く音、人の話す音、どこからか聞こえてくる少女の歌声。
飲み屋がいくつも明かりとメニューを掲げ、そこに人が吸い込まれていく。
明かりの落ちた店では、しゃれた洋服を着たマネキンがさびしそうにたたずんでいる。

車のライトの洪水の中を、竜が体をくねらせて泳いでいる。


⌒*リ´・-・リ「――あ」

爪'ー`)「どうしたんだい?」


少女の白い指が、宙へと向けられる。
ふわふわと空を飛ぶ風船のような物体を、彼女はしっかりと指さしていた。
いや、風船ではない。

ネオンの光を受けてキラキラと光るそれには、尾ひれがある。


kingyo3.png



l从・∀・*ノ!リ人「金魚なのじゃー」

爪'ー`)「おや」


ギラギラとしたネオンにはふさわしくない、幼い声が笑う。
少し古風なしゃべり方の浴衣を着た少女の傍らには、兄とおぼしき男が二人。


( ´_ゝ`)「ふむ、見えるか弟者」

(´<_` )「うむ、見えぬな兄者」


そろいの浴衣を着た、長身の男たち。細い体躯の上につく顔は、猫のような獣の頭。
愛らしい少女と並ぶには、アンバランスな姿だ。
しかし、少女はこの異形の兄たちに全面の信頼を寄せているらしい。
幼い少女の表情に、怯える様子は少しも見えなかった。


爪'ー`)y‐「あの三人は兄弟かな? 姿はまったくの別物だが」

⌒*リ´・-・リ「……見た目は、あまり関係ないの」


二人の両手にぶら下がるようにしてしがみつく少女は、満面の笑みをたたえている。
私の傍らに立つ少女とは対照的な、いきいきとした表情だ。


l从・へ・#ノ!リ人「むー、ちゃんといるのじゃ!
         おっきい兄者も、ちっちゃい兄者もちゃんと見るのじゃ!」

( ´_ゝ`)「と、いわれてもだな」(´<_` )


少女が指し示す方角には、飛ぶ世界を間違えた赤い魚。
身をくねらせながら、月をぱくりと貪ろうとしているが、その周りの雲ばかりが口に入っている。
この魚をそのまま放っておけば、世界はこの兄たちのような異形だらけになるのだろうか?


( ´_ゝ`)「金魚は空を飛ばぬのだよ、妹者」

(´<_` )「金魚は水を泳ぐものだよ、妹者」


獣が人に常識を説く姿は、金魚が空を飛ぶより奇妙なものだ。
しかも、私の目には飛ぶ金魚が見えるのだから、これは兄弟のほうが間違っている。


l从・~・#ノ!リ人「むむーっ!」

爪'ー`)δ

「!」 l从・∀・*ノ!リ人


口ごもる少女に手助けをするように、私は金魚を指さす。
少女は私の意図に気づいたのか、同じように指をその赤い魚に向ける。
私と少女、二人の指の先で金魚は優雅に身をくねらせる。


∩l从・∀・ノ!リ人ナノジャー


( ´_ゝ`)「?」(´<_` )


二人の兄は猫のような耳をぴくぴくと動かしながら、そっと首をかしげた。
服装や顔だけでなく、この男たちは仕草までもそっくりだ。


⌒*リ´・-・リ「金魚、飛んでるね」

爪'ー`)yU「――ああ」


手にしたグラスを宙に掲げてみても、すくえるのは水ばかり。
月の光に輝く青は美しいが、肝心の金魚が捕まる気配はない。


⌒*リ´・-・リ「気づいてないのかな」

爪;'ー`)yU「――さて、どうしたもんかね」

⌒*リ´・-・リ「あ」


私たちの視線の先で、魚は雲を食いつくし月に口をつけた。
ぱくりと魚が口を動かすと月が一欠け、ぱくりともう一度動かすと月が二欠け。
満月だった月はあっという間に、半月に。


∩l从・∀・#ノ!リ人「あーーーっ、食べちゃダメなのじゃぁぁぁ!!!」


( ´_ゝ`)「月が欠けたな、弟者」

(´<_` )「それは困るな、兄者」


( ´_ゝ`)「これはあれだな、弟者」

                 「兄者、あれはこれだな」(´<_` )


∩l从・д・#ノ!リ人「あれでもこれでもなくて、金魚なのじゃーー!!!」


半月が、三日月となり、さらに細い猫の爪。
細く小さくなった、月さえもぱくりと食べれば、もう月は夜空にはない。
そこには、黒いぽっかりとした空間があるだけ。


( ´_ゝ`)l从・∀・;ノ!リ人(´<_` )


獣の兄の手が、宙を指す妹の手を取った。
浴衣を着たもう一人の兄の手も、パタパタと動きまわる妹の手を取った。


( ´_ゝ`)「今宵は荒れる。 帰ろう、妹者」

(´<_` )「今夜は危険だ。 帰ろう、妹者」


从・∀・;ノ!リ人「どどど、どうしたのじゃ? おっきー兄者、ちっちゃい兄者!!」


そして二匹の獣と、一人の少女はふわりと宙に浮いた。


ひらひらと揺れる少女の浴衣の帯はまるで金魚。
兄の耳がピクリと動いて、金魚を見る。
もう一人の兄の浴衣がふわりと動いて、私と少女を見る。


( ´_ゝ`)「ふむ、金魚だな。ここまででかくなると、俺にも見えるな」

(´<_` )「ふむ、少女だな。ここまで来てしまうと、俺にも分かるな」


l从‐д‐;ノ!リ人「兄者たちの言うことは、さっぱりなのじゃ」


そして、そのまま彼らは宙を歩きだす。
どうせならば、そのまま金魚も捕まえてもらいたいものだが、彼らにその気持ちはないらしい。


l从・∀・ノ!リ人『ばいばい』


小さな少女の口が小さく動いて、彼らの体は宙へと溶けた。
空には見えない抜け道があるのだなと、妙に感心してしまう。


爪'ー`)yU「いやはや、仲の良い兄弟だ」

⌒*リ´・-・リ「……」


空から視線を外し、少女の姿を見る。
彼女は消えてしまった月と、金魚をじっと眺めている。
魚は、グラスの方を見ようともしない。


⌒*リ´・-・リ「……月、食べちゃった」

爪'ー`)yU「あぁ。ここでグラスを向けているだけじゃ、ダメなようだ」

⌒*リ;・-・リ「たいへんなことに、なっちゃう」


少女は、かすかに震えている。


⌒*リ;´ - リ「穴……ものすごく、深くて大きいの。
        もっと、おおきくなる、そしたら……」


彼女が、ぎゅっと私の手を握りしめる。その手もやはり、小さく震えている。


⌒*リ´;-;リ「つかまえて」


彼女の感情は金魚のためにあるのだなと不謹慎なことを、ふと考えていた。
曖昧な動かない表情が小さく笑うのは、金魚が戻ってきた時。
その表情が困惑や、狼狽を浮かべるのもまた、金魚のため。

――どうして、私は金魚ではないのだろう。


金魚、金魚。
空を飛び、世界を食うその存在。
星を食べ、月を食べ、概念を食べ、世界を食う。


爪 ー )「……」


そういえば、ここはどこなのだろうか?


道幅の広い道路には車と、炎を上げる牛車と獣の群れがあふれている。
思い思いに声をあげ、歩道を通る人、尾のあるもの、角のあるもの。
キィキィと叫ぶ声、人の話す音、地の底から聞こえてくる人魚の歌声。


⌒*リ´;-;リ               少女だ
                              少女だ
                                          少女だ

さざ波のように、声がする。
二重写しのように、いくつもの光景が、言葉が音が重なっている。
見上げればきらきらと輝く星の間を、汽車が走りぬけている。


爪 ー )「金魚……金魚はどこにいるのだろう」


――ああ、早くつかまえなければ。


飲み屋がいくつも明かりとメニューを掲げ、そこに人が吸い込まれていく。
角を伸ばした女の横を、仕事帰りらしき背広の男が通り過ぎていく。
明かりの落ちた店をみれば、洒落た服を着せられた小さな人形と猫が、大きな目の男と話している。


(*‘ω‘ *) ショウジョ

( <●><●>)「ああ、少女ですね。
        ということは、技師や巫女たちは大忙しでしょう。
        今頃は、マスターも気が気じゃないでしょうね」

( ><)「ナゼ なの カ 、わかんないんです」

( <●><●>)「嗚呼、貴方はそればかりですね。
         さあ、疑問をお話しなさい。話しなさい
         そうすればいつかは人になれるのだと、私にはわかっています」

(*‘ω‘ *) ホントウハワカッテナイ

( <―><―>)「――いいえ」

(>< )「ワカラナ いんです」

( <●><●>)「わかってます」


動かない人形を抱きしめて、男は空を見上げる。
猫はぽぽぽと、鳴きながら毛づくろいをし始める。
私は店から目を外し、走り出している。



金魚はどこだろう?

空はふわふわと飛ぶクラゲや、青白く燃える火で見通しが利かない。
ビルに上がれば、もっと空が見えるだろうか。


爪 ー )「そのビルはどこだろう?」


早く、早く見つけなければ、彼女はずっと泣いたままだ。
ずっと、ずっと泣いたまま?
それならそれで、よいのか  も、  しれ  


(    )「モナモナほいっ、と」


――痛み。
それから、なんとも間抜けな声を聞いた。


爪;'ー`)「――っ」


ずきずきと痛む頭を押さえる。
何か――大きなものではない、硬い何か――で殴られたような鋭い痛み。
痛みに顔をしかめながら、顔を声がした方に向ける。


( ´∀`)「どうやら、正気づいた様モナね」


狸。
顔を上げると、そこには狸がいた。


( ´∀`)「妙なところを歩くのもよいが、道を外れるのはよろしいもんじゃないモナ」

爪;'ー`)「……道を? 私はただ、ビルを……」


そう口にしたところで、私は気づく。
――そもそも、何故ビルへと行こうとしていたのだろう。
いや、その後に私は何を考えた。


⌒*リ´;-;リ


少女を見る。
強く握られすぎた手は赤くなり、とめどない涙がその顔を覆っている。

私は、


彼女が、泣きやまねばいいと思ったのではなかったか。
金魚を探さなければと言いつつ、そんなもの見つからねばよいと、そう思ったのではないか。




⌒*リ´;-;リ「……だい、じょうぶ」

爪;'ー`)「―――――っ」


今すぐ、世界が壊れてしまえばいい。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ―――


( ´∀`)「――おりゃぁ、モナっ」


―――瞬間、狸に頭を打たれた。
ふくふくと笑う狸の手には、吸い口が月の色に輝くキセル。
ああ、先程もこれに殴られたのかと合点する。


( ´∀`)「また、踏み外した。
      そこはあわい。気を保たねばかえれんモナ」


燕尾服を着こなした狸が、宙に腰掛けながらマヌケな表情で笑っている。
それにしても狸というものは、このように白く猫のような耳をしていただろうか。
狸は宙に座ったまま器用に、キセルに煙草を詰め火をつける。


( ´∀`)y─┛「まぁ、これだけ金魚に食われれば正気も何もないモナね。
          あちこち混ざって、つぎはぎだらけモナ」


爪;'-`)「……空に腰掛けるよりは危なくないさ」


深く息を吸い、そう言い繕った。
狸に言われるまでもなく、今の自分は酷い状態だ。
彼女が現れるとき世界と思考はいつでも曖昧になるが、それでも頭のどこかは冷静だった。
しかし、今回はそうではない――。


  店の外には、金魚が空にいるだけだった。
  路地では、未来の作家の頭にしか存在しない少女と、草原。
  そして、今は。 ――奇妙な人とも獣ともつかない生き物たち。


爪'-`)「……ここは?」


 バーボンハウスから離れれば離れるほど、浸食は大きくなっている。
 ここは私の知るあの世界なのか。 それとも、彼女たちの所属する領域なのか。
 夢が現となり、現が夢となる。

 その中で、私は、私さえもわからない――。


( ´∀`)y─┛「さっきから、言ってるモナ。 ここは、あわいモナ」


狸はふぅと煙を吐いて、ふくふくと笑った。
これが着物やパイプであれば様になるのだが、それだけが残念である。


( ´∀`)y─┛「さて、少女。
          御仁は道がわからない。それなのに、お前さんはいつまで泣いてるモナ?」

⌒*リ´;-;リ「……ぅ」

( ´∀`)y─┛「お前さんが泣いていれば御仁も困ろう。
          御仁がこんなところを歩けるのも、お前さんがいるからだ。
          標が案内として機能せねば、道すら探せぬモナ」


狸はふくふくした笑いを崩さぬまま、少女に言う。
狸の言う言葉はわからないが、少女を責める言葉のような気がして、私は声を上げる。


爪;'ー`)「おいおい、待て、狸。」

( ´∀`)y─┛「御仁は、少女に甘いモナ。
          そこは子供か老人か旅人でなければ、通れぬ道。
          狂うか、死ぬか、帰れぬか。祟り祟られ、――全ては、夢現」

爪;'ー`)「おいおいおいおい」


狸の目から、少女を隠すように立つ。
白い毛並みで、うまそうに煙管をふかす狸を睨みつけ、少女を隠す。



⌒*リ´;-;リ



⌒*リ´;-;リヽ('ー`爪


少女の頬に流れる涙を、指でぬぐってやる。
「もう、泣かなくていい」と言った言葉が、妙にくすぐったい。


⌒*リ´・-;リ


少女の頬は、小さく柔らかくて。
触れるとやはり、ひんやりとしている。


⌒*リ´・-;リ「ほんとうは、わるいことだって……しってたの」


⌒*リ´;-;リ「――でも、見つけてくれる人、誰もいなくて」


少女の背に、赤い赤い金魚が飛ぶのが見えた。
月を食べて、私をおかしくして、通りに人でないものを溢れさせて。
これ以上、お前は何を食べるというのか。


⌒*リ´;-;リ「マスターもがんばったけど、むりで……。
       そんなとき、       あなたがあの店に」

( ´∀`)y─┛「それで、御仁を引っ張り込んだと?」



⌒*リ´∩-;リ


少女は、自分の手で涙をぬぐった。
その顔に浮かぶのは、いつもの曖昧な表情じゃない。


⌒*リ´・‐・リ「……うれしかったの、気づいてくれて」


怯える様な、弱々しい表情。
彼女が身にまとう花の香が、小さく香る。
彼女の髪飾りがちらりと光り、華奢なつくりの薄絹のワンピースが揺れる。

狸の言葉はもう聞こえない。金魚の姿はもう見えない。


⌒*リ´・ー・リ


私の視界の中は、私の中の全ては、小さな華奢な少女で満たされている。
暗い空間の中で揺れる、一輪の百合。
その花は本来であれば大きく毒々しいまでに派手なはずなのに、揺れる花は小さく華奢だった。


⌒*リ*・ー・リ「―‐ありがとう」


その顔を向けてくれるのならば、私は金魚でなくとも構わない。


その百合を手折らないように、そっと手をつなぐ。
見上げてた空には、はっきりと金魚の姿が見えていた。


( ´∀`)y─┛「モナモナ。 余計な心配は無用だったみたいモナね」

爪'ー`)「そうでもないさ」


傍らに立つ少女に笑いかけると、彼女はぎこちなく笑みを返す。
その笑みがあれば、もう道に迷いはしない。


爪'ー`)「な」

⌒*リ*・ー・リ「……うん」

(;´∀`)y─┛「それはそれは」


狸の表情が崩れたのが、妙に愉快だった。


爪'ー`)yU「金魚を捕まえるには、どこへ行くのがいい?」

( ´∀`)y─┛「御仁は、職を変えた方がい。
          こちら側の方がずっと向いてるモナ」

爪'ー`)yU「彼女がいるのなら、考えるさ」


( ´∀`)y─┛「じゃあ、その少女のためにモナも協力させてもらうかね」


狸がキセルを振うと、煙が噴きあがる。そして、その中から現れたのは、三匹の猫。


( ・∀・)「空を行け」

(;'A`)「……無理に決まってるだろう……まったく……もう、何だよ……」


黄色い毛並みの丸尻尾の猫は、道を行くくたびれた男の肩にのると言った。
猫がいるとは知らない男は、死にたい死にたいとつぶやき続けている。


(*゚ー゚)「技師と、巫女が鯨を探しているわ」

ξ゚⊿゚)ξ「――どこにいるのかしら? まったく」


桃色の愛らしい猫は、着飾った女の肩に着地する。
猫を肩に乗せた女は、巻き毛を揺らして辺りを見回している。


(,,゚Д゚)「急ぎやがれ、境界に飲まれてやがる」

(;^ω^)「急ぐぞ急ぐぞ、やっぱいお!」


青い毛並みの気の強そうな猫を頭の上に乗せ、ジーンズ姿の男が走りだす。


(;´∀`)y─┛「あちゃー、空モナか……」

爪'ー`)「ま、飛べるようにがんばってみるさ」


頭を抱える狸に手を振って、私は歩き始める。
狸や猫、それに人形まで話すのだ、空くらい飛べるに違いはない。
現に、二人の兄とともに歩いていたあの少女も飛んでいた。


(;´∀`)y─┛「御仁は、短い時間で随分様子が変わったモナ」

爪'ー`)「人なんてそんなものさ」

⌒*リ´・-・リ「そうなの?」

爪'ー`)「そういうものなんだ」


私の言葉に少女が、小さく小首をかしげる。
前にも見た動作だが、その動きはなんとも愛らしかった。
つないでいた手を話し、少女の頭をなでると彼女はまた小さく笑う。


( ´∀`)y─┛「モナモナ、それじゃお気をつけて」

爪'ー`)「世話になった」


狸に別れを告げ、私と彼女は再び歩き出した。







爪'ー`)「行こう、金魚を捕まえるんだ」






――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


月のない空には、青白く燃える火が燃えている。
鯨は見えないが、クラゲや、銀色に光る魚の群れが飛んでいる。


⌒*リ´・-・リ「……海、みたいね」

爪'ー`)「それは大変だ。金魚は、空気の中や、海水じゃ生きられない」


魚たちの群れの中を、金魚の赤い鱗が輝いている。
その魚たちを驚いた顔で見上げる、サラリーマンや、獣たち。
まったく気付かぬ顔で、通りを歩く女や、影。


見回してみれば、そこはこれまで歩いていた大通りだった。


爪'ー`)「不思議だな。見覚えのある通りかと思えば、そうでもない」

⌒*リ´・-・リ「食べられちゃったから」


普段目にする通りに、見たことのない通りが重なり合っている。
重ねたトレーシングペーパーのように、二つの絵が重なり合っている。
マネキンがおかれた店が人形と男と猫に変わり、通りを歩く者の肩や頭には猫が乗る。


爪'ー`)「我々がいるのは、夢か現実か、それとも向こう側なのか」

⌒*リ´・-・リ「私たちも金魚も、そのあいだにいるの」


夜の海を悠然と泳ぐ金魚の下で、足を止める。
黄金色の腹をくねらせて飛ぶ魚は今度は星に夢中で、我々には気づこうともしない。
グラスにさえ気づいてくれれば、あの魚は自分から飛び込んでくれるというのに。


( ФωФ)「低地水銀高陵塔の具合は?」

lw´‐ _‐ノv「そうさね、鯨が飛ばないことにはよろしくないさ」


鯨と言う単語に、私は視線を空から町へと戻した。
それは桃色の猫が口にした言葉ではなかったか。
だとしたら、この声の主は技師と、巫女ではないだろうか。


⌒*リ´・-・リ「……あそこ」


彼女の指さした先では、金色の目をした制服を着た黒猫――おそらく技師――が、目を閉じた巫女と言葉をかわしていた。
そんな彼ら二人の体をすり抜けて、飲み会帰りらしい集団が通り過ぎていく。


( ФωФ)「嗚呼、困ったものである。
        彼の魚どもは星華月の貴重さをわかっておらぬ」
 _
(*゚∀゚)「もう、一軒行くぞぉー!
     おみゃえら、おっぱいのおっきーオネエちゃんの店をさがしぇー!!」

(;^Д^)「せんぱーいっ、もう呂律回ってないっすよぉー。
     今夜は、やめといた方がいいですってばぁ。 帰りましょうよぉー」


二股に分かれた技師の尻尾がぶんぶんと振り回されるたび、通行人の体がブレて見える。
映りの悪いテレビのように左右にブレる男の姿は、気持ち良よさそうに笑ったままだ。
技師も巫女も、奇妙な現象に気を止めるそぶりを見せない。


lw´‐ _‐ノv「鯨、鯨、鯨、鯨はどこにいるんだろうさね。
      どこぞの店主に食われたわけじゃ、ないさね?」
 _
(#゚∀゚)「おるぇは、おっぱいのおっきーオネエちゃんにあうまではねむれにぇー!!」


巫女のふくよかな胸部には気付かぬまま、酔いで顔を赤くした男が彼女の体を通り抜ける。
――世の中とは、実にうまくいかないものだ。


爪'ー`)「あれが、巫女と技師かい?」

⌒*リ´・-・リ「そう。鯨を探しているの」



鯨を見つけたらどうなるというのだろう?やはり、鯨も空を飛ぶのだろうか?
彼女たちの常識は、私にはわからない。


爪'ー`)「鯨とやらはあの二人に任せておけばいいのかい?」

⌒*リ´・-・リ「うん……」


優先すべきは、この黄金色の腹の持ち主。
しかし、その持ち主は悠々と空を見上げている。

とすれば、やはり――


爪;'ー`)「空を飛ぶ……か」


あの黄色い猫が言う通り、飛ぶしかないのだろう。
問題は方法。
ビルを昇るか、道路を泳ぐ竜を捕まえるべきか。それとも――


⌒*リ´・-・リ「空を、飛べばいいの?」


思案する私のすぐ傍らで、少女のワンピースがふわりと広がる。
緑をかすかに混ぜ込んだ鮮やかな白。
――純潔の象徴であるあの花のように、彼女の薄絹は広がる。



   ⌒*リ´・-・リ「――わたしと、とんでくれる?」



少女の体が、空に消えたあの兄妹たちのようにふわりと浮かびあがる。
私の顔と同じ高さに少女は浮かび、やがて私を追い抜いてさらに飛ぶ。


ある筈のない風に髪とスカートをなびかせて、空に彼女はいた。
私の手が、彼女の上昇に合わせてそっと上へと上がっている。

――初めから、答えは決まっている。


爪'ー`)「よろこんで」


その時にはもう、私の体は宙へと浮かびあがっていた。
見えない風のような何かが私を、ゆっくりと持ち上げる。
子供たちが入って遊ぶ空気で膨らませた、アトラクションに入ったような感覚。


爪;'ー`)「はは……は
      本当はどうにかして、私が飛ぶつもりだったんだけどね」

⌒*リ´・-・リ「とぶのは、はじめて?」

爪;'ー`)「タワーと飛行機を除けば、初めてだね」


ふわふわとした、心許ない感触に汗が流れおちる。
人類初の道具を全く使わない完全飛行。
まさか、自分が達成することになるとは思ってもみなかった。


⌒*リ´・-・リ「じゃあ、おめでとう、ね」

爪;'ー`)「そ、それはどう……どうも」


危なげもなく、空を飛びながら彼女は言う。
私の方はといえば、辺りを飛ぶクラゲや魚を踏みつけながら、何とか飛んでいる状態だ。
青く輝く燃える火が、一つ、二つと、近づいては足下へとながれていく。

そして、
クラゲと踏み越えた先に、そいつはいた。


kingyo4.png



爪'ー`)「ようやく、御対面か」


青い火たちを従えて、口からはぷかぷかと泡を吐き出して、
どろりとした黒い目に、月と星の光をキラキラと光らせて、そいつは泳いでいる。
何も浮かばない無感情な顔。少女が浮かべた曖昧な表情とは対極にある、無感情。


⌒*リ´・-・リ「あなたが、最後なの」


この無感情な魚は、何故それほどまでに食べるのだろうか。
月を食べて、星を食べて、思考を食べ、常識を食べて、世界を食べ。
それほどまでにして、何を求めているのだろうか。


          ⌒*リ´・ー・リヾ●)::::::ノ

             「かえろう?」


少女の口がそっと動き、空いた片方の手がそっと魚の鱗をなでる。
赤い魚は瞬きしない瞳で、少女を、少女の手を見つめる。

         そして、
                      その魚は


                            その目で私を見て――



                   ぱくりと、




           あの白い花を、あの白い花に似た彼女を――



                                            飲み――








                爪# д )







彼女の手を力づくで引いた。
折れそうなその細い体をきつく抱きしめ、目の前に浮かぶ巨体を、

足で

思いっきり蹴りつけた


そう――はっきりと理解したのは、落ちはじめてからのことで。


私は、落ちながら、どこか、冷静に、
そうか、少女を抱きとめてしまったからバランスを失ってしまったんだなと。

馬鹿みたいに、冷静に、冷静に、冷静に――。


私の腕の中で身を固くする少女と、手にしたままのグラスを強く握り、抱きしめて。
ネオンと車と人で溢れ返る町へと、


おちていく
落ちていく
墜ちていく
オチテイク



彼女の体からは強く、あの白い花の香りがした。
それを感じながら、体を支えることもできずに、私は落ちていく――。



l从・∀・#ノ!リ人「おっきー兄者! ちっちゃい兄者! たいへんなのじゃ、はやく! はやくー」


(;´_ゝ`)「と、ときに待て、妹者」

(´<_`;)「さ、流石に妹者と少女と、このでっかいのは……」


(´<_`;)「支え、きれ……ない」(;´_ゝ`)


声が聞こえた。
幼い少女と、そっくりな二人の男の声。

消えたわけじゃなかったのか。服を、体を掴まれながら、そんなことを考えた。


l从>∀<;ノ!リ人「い、いもじゃもがんばるのじゃ! だから、がんばるのじゃ!」

(;´_ゝ`)「このままだと、俺らも落ちるぞ、妹者」

(´<_`;)「このままだと、彼らも落ちるぞ、妹者」


私の体はいい。
だから、私の腕の中にいる少女を。
彼女を――――-

体を引っ張られながらも、落下は止まらない。
風がびゅんびゅんと音を立て、それでも彼女の体から手が離せない。


l从 ∀ ;ノ!リ人「がんばるのじゃーー!!!」

(´く_` ;)「――-っ」(; ´_>`)


風が髪と服を舞いあげ、私の両肩をつかんだ兄弟の浴衣のすそをはためかせた。
ビルの屋上、窓ガラス、ライトアップされた看板……
地上はおそらく、もうすぐだ。


馬鹿なことをしたと、自分でも思う。
それでも自分を止められないのだから、救いようがない。
どうしたらいい、どうしたらよかった? どうしたら彼女を――


⌒*リ´・ー・リ「―――――だいじょうぶ」


声が、聞こえた。
私の腕の中で、少しも焦りや恐怖などを感じてなどいない表情で、小さく笑って少女が言う。


そして、街灯が見え、道路が見えて、アスファルトに―――。





             ちゃぷん






 硬い、黒い、アスファルトの下。



                             暗い暗い、黒を通り抜けたその先に、










                    海が広がっていた。




爪;'ー`)「これは……」


ざざん、と鳴る潮騒の音。
全身にまとわりつく空気はひんやりとして、重い。
風を切るような落下の感覚は消え、ゆらゆらと波に体をゆすられる感覚があった。


⌒*リ*・-・リ「ここはね、海なの」


見上げればキラキラと輝く水面に夜の街が広がり、見下ろせばそこにはうっそうと茂る森と白い花たちの群れ。
息を吸って吐くたびに、こぽりと泡が立ち上る。
あの兄妹たちの姿はなく、全身を包む青の世界に、私と彼女だけが漂っていた。


⌒*リ*- -リ「つかまえた金魚はね、ここにかえっていくの」


私の胸元に甘えるように顔をうずめて、少女は言った。
彼女は息をしないのか、話しても泡はぷくりとも昇らない。
黒い髪と、ワンピースが波の動きにふわふわと揺れる。


爪;'ー`)「う、海」


――ではここが、アスファルトの向こうの世界なのか。
彼女が愛しそうに見つめていた、金魚のかえっていく世界。


こぽりと音を立てて、黒い巨大な出目金が泳いでいく。
私と彼女に戯れるように、赤い金魚が一匹泳ぎまわっている。


静かだ。


波と、あぶくのたてる音しか聞こえない、穏やかな世界。



⌒*リ*- -リ「だからね、この子も……」

爪'-`)「この子?」


彼女ごと握りしめていたグラスの存在をようやく意識する。
彼女に回した腕を片方放し、手にしたままだったグラスに目を転じる。


――青い、青いグラスの中に、彼女を飲み込もうとしたあの魚が小さく縮んで泳いでいる。


⌒*リ*・ー・リ「ここに還って行くの」


赤い魚が震えて、海中へと飛び出していく。
私の周りを泳いでいた赤い魚と戯れ、黒の人工魚とくるくると泳ぎ回る。



私は、


爪'-`)「――聞いてもいいか?」

⌒*リ´・-・リ「……なに?」


泳ぎ、戯れる金魚たちを、


爪'-`)「君は、一体何者なんだ?」

⌒*リ´・-・リ「……なん……なんだろう?」


目の前に広がる海を、頭上に広がる夜の街を、眼下に広がる森を、
その中に広がる小さな湖と、白い花の群れを、今も私の腕の中にいる彼女を、


爪'ー`)「――また、会えるのかい?」


⌒*リ*^ー^リ「うん」


ずっと、見ていた――。




――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――


――目を開くとそこは海ではなく、店の立ち並ぶ大通りの一角だった。
道路わきにある店では人形を抱いた男が猫と話し続けている。
そして、街灯の下には私を見つめるたくさんの目があった。


( ´_ゝ`)「ふむ、金魚は無事にかえったようだな」

(´<_` )「うむ、少女らも無事にかえったようだな」


l从・∀・;ノ!リ人「だ、大丈夫だったのじゃー? おじさんに、ちっちゃいこ」


私を抱えて飛ぼうとした、浴衣の兄妹たち。
彼らは私たちとは違い、無事に地に降り立つことができた様だ。


(;´∀`)「御仁は随分と無茶をするモナ」



そして、何故か全身ずぶ濡れの狸。
通りに目を転じると、青や黄色や桃色の猫たちを乗せた者たちがあくせくと歩いているのが見えた。


爪;'ー`)「――ここは、?」

⌒*リ´・-・リ「……大通り……とかいうところ」


少女は、先程までと変わらずに私の腕の中にいた。
私は少女を抱きしめ続けていることに気づき、あわてて彼女を開放した。


⌒*リ´・-・リ「狸さんがね、ひっぱりあげてくれたの」

( ´∀`)「そこの流石のに言われたモナ。溺れるかと思ったモナ。
      まったく、流石ののお嬢さんにはかなわないモナ」

( ´_ゝ`)「流石だよな、妹者」(´<_` )

l从・∀・*ノ!リ人「えへへー、なのじゃ」


兄妹と狸がふくふくと笑っている。
そんな異様な光景なのに、通りを行くものは誰も目に止めない。
赤い魚が消えた空には月はなく、星の代りに青く光る不知火が瞬いていた。
クラゲも、人とも思えない連中も、相変わらず通りには溢れている。


爪;'ー`)「これは……どういうことだ?」


路地に広がった幻の草原とふわふわとした髪の娘は金魚とともに消えた。
空で月を食べていた赤い魚はあの海へとかえったのに、大通りは何も変わらない。


( ・∀・)「食われ過ぎたんだ」

(*゚ー゚)「困ったわ」

(,,゚Д゚)「――まだ、最悪の事態にはなっちゃいねぇ」


色とりどりの猫たちが、にゃぁにゃぁと鳴く。
どうやら、金魚たちは随分と食べ散らかしてしまったようだ。
私の知る街の姿は随分と、あやふやになってしまった。


( ФωФ)「――見つけたのである!」

lw´‐ _‐ノv「早くおいでや 遊べや 鯨」

(#ФωФ)「サボっておらぬと、はよう来い!!!」


いつ私の影が歩き始めてもおかしくはない。
しかし、捕まえなければならない金魚はもういない。
私はため息をつくと、煙草を取り出し火をつけた。


( ´∀`)「御仁、モナにも一つ恵んでくれ。
      紙巻きは好かんが、モナの煙草は海のせいでつかいものにならん」

爪;'ー`)y‐「そりゃあ、すまないことをした」


煙草を一本と火を譲ると、狸はふくふくと笑って火をつけた。
――ありがたいことに、煙草はいつもと同じ味だった。


l从・∀・ノ!リ人「あー、タバコなんてすってるのじゃー、わるいこさんなのじゃー」

( ´_ゝ`)「俺は好かん」

(´<_` )「安心しろ、俺もだ」


浴衣の少女と、兄弟が笑いながら、宙に浮かぶのが見えた。
今度こそ、空へと帰っていくのだろうか。


爪'ー`)y‐「随分と、迷惑をかけたな」

l从^ー^*ノ!リ人「べつにいいのじゃー、タバコのおじさん」


楽しそうに、浴衣の幼い少女が笑う。そんな彼女を、二人の獣の兄が支える。


( ´_ゝ`)「また、妹者とまた遊んでやってくれ」(´<_` )

⌒*リ´・-・リ「ありがとう、ね」


空へと帰っていく兄妹たちに、少女は小さく手を振っている。



爪'ー`)y‐「さてと、私はどうしたらいい?」


煙草のあげる白い煙は、少しずつたなびいて空へと溶けていく。
その空を、キラキラと光る巨大な闇が泳いでいる。


⌒*リ´・ー・リ「だいじょうぶ」

( ´∀`)y‐「技師は鯨を捕まえた様モナね。モナもそろそろ消えるモナ」

爪'ー`)y‐「……鯨?」


空にはいつの間にか、巨大なシルエットが泳いでいた。
黒の出目金よりも、赤の金魚よりも、ずっと大きい何か。
見上げた空全てを埋め尽くす、巨大な黒い影。


lw´‐ _‐ノv「食えよ鯨 歌えよ鯨」


何処からか聞こえる、歌声。
宵闇に浮かぶ炎が、クラゲが、魚がどんどんと姿を消していく。
人形と男が姿を消した、車道は車だけになった、色鮮やかな猫が一匹、二匹と消えていく。



⌒*リ´・-・リ「もうすぐ、おわかれ」


少女の手が、私の手と重なる。
その手はひんやりとしていて、まだ彼女がここにいるのだと、かろうじて感じることができた。


爪'-`)y‐「そうだ。もうひとつ聞くことがあった」

⌒*リ´・ー・リ「なあに?」

爪'ー`)y‐「――君の、名前は?」


瞬間、空に燦然と輝く光の柱が立ち上った。
光はある高さまであがると、光の粒を地上にばらまきながら消えていく。



kujira.png



その光に照らされて、見えたのは――光の柱を、光の粒を噴き上げる、鯨の姿だった。



赤い魚が消えた空を鯨は悠然と泳ぎ、やがて、見えなくなった。
後に残ったのはキラキラとはしない夜の空と、食われたはずの月。
弱々しいながらも星は光り、ネオンの光はそれに負けじと強烈に輝いている。



⌒*リ* ー リ「わたしの、なまえはね――」




かすかな声は、最後までは届かなかった。
少女の姿はとうになく、ただ花の香りだけが微かにするだけ。


爪'-`)y‐~「……」


車の動く音、人の話す声、耳障りな音達に、辺りを見ない沢山の人の群れ。
飲み屋がいくつも明かりとメニューを掲げ、そこに人が吸い込まれていく。
明かりの落ちた道路わきの店では、しゃれた洋服を着たマネキンがさびしそうにたたずんでいる。


( ´曲`)「社長さん、社長さん、ウチにいい娘が―――――」


ザワザワという喧噪、汗と肉と酒の臭い、スーツの群れと華やかな衣服の一団。
そこは、金魚など飛ぶはずがない世界。

 _
(#゚∀゚)「おりぇのおっぱぁあああああいいいぃぃぃ!!!」

(つ;Д;)つ「せんぱいやめてぇぇぇぇぇ!!!


飲み会帰りの、一団。


(*^ω^)「ようやく見つけたお!」

ξ#゚⊿゚)ξ「もう、どこいってたのよ! 探しちゃったじゃない」

(;'A`)「畜生、どこをみてもカップルやリア充……何で、俺ばっかが」


ようやく出会えたらしい、カップルと思われる男女。
そして、それを若干うとましそうに眺める、くたびれた男。


爪∩-`)y‐~


未来の作家が夢見た娘も、浴衣姿の愛らしい少女と獣の兄たちも、巫女も、猫の技師も、
煙管をくゆらせた洋装の狸も、人々の肩に乗った色とりどりの猫たちも、黒い出目金も、赤い小さな魚も、ない。


爪∩- )y‐~「……月だけが変わらない、か」



そこにはもう、花の香りは無かった。
役目を失った、青を含んだ透明なグラスだけがそこには転がっている。


(´・ω・`)「お疲れ様」


いつの間にやら現れた店主が、グラスを拾い微笑んでいる。
その手には、ウィスキーで満たされたボトル。
……やけに、準備のいいことだ。


爪∩- )y‐~「とびきり強い酒を頼む」


金魚のいなくなったグラスに、琥珀色の液体が注がれていく。
私はそれを確認すると、金魚さえも見えない酩酊へと沈むために酒をあおった。






――気付けばそこは、バーボンハウスだった。



いつもの席ではなく、カウンター席に私は座っている様だった。
異国の音楽が流れ、雑貨かガラクタかわからない道具の中に、あの未来の作家の作品が並んでいる。


(´・ω・`)「今回は危なかったね。流石に僕もひやりときたよ」

爪'ー`)y‐「そうなのかい?」


喉を焼きながら琥珀色の液体は、胃へと落ちていく。
夜風に冷やされていた体が熱を持ち、再び思考がかすみ始める。


(´・ω・`)「鯨が現れてくれてよかった。君もそう思うだろう?」

爪'-`)y-「巫女や技師が探してくれたようだからね。
      あの鯨が何だったのか、私にはさっぱりとわからんがね」

(´・ω・`)「わからないということを知るのは、学問の偉大なる一歩だよ」

爪'ー`)y‐「さて、どうだか」


この店主はどこまで知っているのだろうか。
こちら側の人間なのか、彼女の側の存在なのかそんなことすらわからない。


(´・ω・`)「これに懲りずに、また協力してくれれば、こちら側としては、ありがたいんだけどね」

爪'ー`)y‐「狸は狂うか、死ぬか、帰れないとかいっていたが?」

(;´・ω・`)「あの狸……僕がそんなヘマをするわけないじゃないか。
       これでも人やものを見る目だけは、自信があるのに」


少女並みに。いや、少女以上に表情を変えない店主がうろたえるのが面白くて、私は言葉をつむぐ。
ああ、そういえばあの狸氏のキセルは大丈夫だろうか。
一本などケチくさいことをせず、一箱はくれてやるべきだった。


爪'ー`)y‐「狸氏にはそれなりに世話になったんでね、あまり酷いことは言わないでくれ」

(;´・ω・`)「……それで、君はまた協力してくれるのかい?」

爪'ー`)y‐「さて、ね」


店主の言葉に私は息をつく。
答えは考えるまでもなく、はじめから決まっていた。


爪'ー`)y‐~「――彼女が、望むなら」


グラスの中を泳ぐ魚を見つめていた少女の姿を思い浮かべる。
生の気配が希薄な、すぐに枯れゆく花のような少女。


未来の作家が、あのふわふわとした髪の娘を夢見たように。
私は幻のようなあの少女に、焦がれているのだ。
その花の香に、黒い瞳に、そっとほころんだ小さな口元に。



      ⌒*リ* ー リ「わたしの、なまえはね――」



アスファルトの向こうの海に消えた彼女の答えに――――――――――。



――――――――――――――――
―――――――――――――――
――――――――――――――
――――――――――――



(´・ω・`)「いらっしゃい」


今日も、私はバーボンハウスへと通う。
流れるジャズ、立ち並ぶ本棚と大量の書籍たち、床に並べられた壺や、アンティークミシン。
壁には何処の誰が描いたのかしれない絵画や、古いポスター。


爪'ー`)y‐「今日のオススメは?」

(´・ω・`)「そうだね、お客さんのお気に入りの作家の新作があるよ」

爪'ー`)y‐~「それは素晴らしい」


煙草の煙を燻らせ、私は彼女の訪れを待ち続ける。
現われるときもあれば、決して現われないこともある、彼女。



爪'ー`)y‐「やあ、いい夜じゃないか」

⌒*リ´・-・リ「……金魚をね、さがしてほしいの」


そして、これからも私は待ち続けるのだろう。
夢が現となり、現が現実となるとの時を。


グラスの中を泳ぐ魚と、それを求める少女。
少女の髪を、体を飾る花の香。
かすかに香る、その花の名は―――――――――――――。



riri.png


爪'ー`)y‐グラスフィッシュ・リリーのようです⌒*リ´・-・リ     了



サマー三国志Z参加作

まとめは、
特設ブログ様 のコチラ
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になります。 
ありがとうございました。

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